まろ様 | ナノ

ささやかなお願い?


「嫌よ、絶対に嫌!」
「何でですか、いいでしょ別に減るもんじゃなし。」
「そういう問題じゃないでしょ?絶対に嫌だからね!」
「まろさんって本当に頑固ですよね。」
「そういう円は本当にしつこいわよね。」

バイトの帰り道。
円の車の中で繰り広げられる戦いのきっかけを作ってくれたのは、無邪気な彼の一言だった。

『そのバイトの制服可愛いね。それ見てると中等部の文化祭でのメイド服思い出すなぁ。』

私を迎えに来ていた円の前でそんな発言をしてくれた鷹斗。
それからというものずっと円は私に恥ずかしすぎる要求をしてくる。

『ぼくの前でも着てくださいよ、メイド服。』

(鷹斗……恨むわ。)

「大体何で隠してたんですか?教えてくれたら授業さぼってでも見に行きましたよ。」
「…笑われるって分かってて教える人がいる?」
「失敬ですねぼくは笑ったりしません。からかいはしますけど。」
「っ、それが嫌だから黙ってたのよ!」

くつくつと喉を鳴らして笑う円を横目で睨みつけた。

「ま、ぼくは心が広いですから今から着てくれればいいです。」
「だから、着ないって言ってるでしょう?本当にしつこいわね。」
「あなたこそ、恋人のささやかなお願いくらい二つ返事で叶えてくれたっていいでしょ。」
「ささやかって、……もう、これいつまで続けるつもりなの??」

平行線のやりとりにいい加減疲れてくる。

はぁ、と溜息をついて隣に目をやると、円が私をじっと見つめていた。
先程赤信号で止まってからずっと見つめられていたと思うと、顔に一気に血液が流れる。

「な、なによ……。」

思いの外真剣なその瞳に、少しだけ狼狽えながらも負けじと見つめ返す。
すると円はどこか自嘲気味に笑って、信号が青に変わったのを確認してまた車を走らせた。

突然雰囲気が変わった彼の様子に戸惑ってしまう。

(何よ、何なのよ……。)

暫く車内を沈黙が覆って、そして円が静かに息を吐いた。

「…ちょっとだけ、悔しかったんです。」
「何の話?」
「あなたと同じ年だったらって、そう思っちゃうんですよ。…どうしても。」
「……………。」

突然そんなしおらしくするのは反則だと思う。
円がずっと私との年の差を気にしているのを知っているからこそ、その言葉が切ない。

「…メイド服って言っても、中等部だからそんな凝ったものじゃなかったのよ。」
「へぇ…。」
「ほとんど裏方だったから、あまり他人には見られなかったと思うし…。」
「そうですか…。」

穏やかな返事と、穏やかな横顔。
でもその横顔はやっぱり寂しそうだった。

本当に反則だと思う。

「…………一度だけ。」
「…はい?」
「……一度だけなら、…着てあげてもいいわ。」

耳まで赤くなっているのが自分でも分かる。

円の反応が気になって窺うように顔を上げれば、そこにはいつもの意地悪な笑顔を浮かべた彼がこちらを見ていて。

「…っ!…はめたわね…?」
「何の話ですか?」

飄々と答える憎たらしい恋人。


「メイド服、楽しみにしてますよ、まろさん。」

にやりと笑ってそう言った円に、私はただ溜息を吐くしかなかった。

結局振り回されるのはいつも私の方なのだ。


御礼と後書き→


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