きみとつくる
女の子と過ごす3ヶ月。
季節のイベントは彼女達にとっての思い出作りで、正直なところ僕は興味無かった。
そりゃあ期間限定の恋人でも喜ばせてあげたいとは思うし、楽しそうな彼女達を見るのは嬉しいとも思うけれど。
どんな楽しい思い出を作ったところで結局は3ヶ月でお別れ。
僕には、別れること前提の綺麗な思い出に何の意味も見出だせなかった。
「ごめんね、今日せっかく約束してたのに逢えなくて。」
『そんな、仕方ないです。レポート提出は間に合いましたか?』
「うん、お陰さまで。全く、ケンが変な茶々入れてきたせいで今回は焦ったよ。」
『ふふ、本当に仲良しですよね二人とも。』
携帯越しに聴こえるマイの鈴の音みたいな笑い声。
それだけで胸が甘く高鳴った。
「まあね、改めて言われるとちょっと気持ち悪いけどね。…それより、クリスマスどうしたいか決まった?」
『あ……、ええと、実はまだ…。』
「初めて二人で過ごすクリスマスだからね、どんな我が儘言ってくれてもいいんだよ?連休だからどこか遠出してもいいし、マイのしたいことをしよう。」
心の底から素直に出た言葉。
特に興味も無かったイベント事も、マイとなら楽しみで仕方なかった。
本当に好きな人と過ごすなら、何でも無い日常だって大切に思える。
だからこそ特別な日はもっと大切にしたい、そう当たり前に思える自分が嬉しかった。
普段ちょっともどかしいくらい物分かりのいいマイだから、こんな時くらい僕を困らせる様なおねだりをして欲しい。
何が欲しい?どこに行きたい?
マイが喜ぶなら、どんなことだってしてあげたいんだ。
「イルミネーションは?ちょっと混んでるかもしれないけど、マイそういうキラキラしたもの好きでしょ?」
『そう、ですね。でも……。』
何だか歯切れの悪い返事に、ふと不安が頭を過る。
もしかしたら、楽しみにしてはしゃいでいるのは自分だけなのだろうか。
そうだとしたら心底格好悪い。
「え、と。特別何かしたいことが無ければ、レストランだけでも予約しておくけど?」
『い、いえ、そうじゃなくて、その……。』
やっぱり口籠る彼女。
表情が見えないから何を思っているのか想像できない。
何だろう。
クリスマスに僕と逢いたくない、とか。
流石にそんなことは無いと信じたいけれど。
遅くなってでも逢いに行けば良かったと後悔が襲った頃、どこか意を決したように彼女が言葉を発した。
『イッキさんは?』
「……え?」
『イッキさんは、何かしたいこととか、行きたい所とかありませんか?』
「……………。」
凄く普通の事を聞かれたんだと思う。
なのにその質問があまりにも意外で、うまく思考が働かなかった。
(僕が、したいこと……?)
『私の希望を聞いて貰えるのは本当に、あの、本当に嬉しいんです。…でも、どうせなら二人で決めたいっていうか、イッキさんの希望も聞きたくて……。』
だって二人で過ごすんですから。
最後にそうポツリと呟いたマイ。
考えたこともなかった。
だって、今まで付き合った彼女達は、いつだって自分の理想の思い出を作ることに必死だったから。
二人で過ごすクリスマス。
「そっか…、そういう考え方もあるんだ…。」
一緒に行きたい所を決めて、一緒にしたいことをして、一緒にプレゼントを買い合って。
そうして二人で思い出を重ねる。
そんな当たり前みたいな幸せに気付けない僕に、いつだってマイは教えてくれる。
『…イッキさん?』
僕を呼ぶ声が、切ないくらいに愛しくて。
「ねぇマイ、今から逢いに行ってもいい?」
『え、今からですか?』
「うん。君に逢いたい。会って一緒に考えよう?」
電話の向こうで、君が羽根みたいにふわりと微笑んだ気がした。
コートとマフラーを掴んで、足早に玄関へ向かう。
きっと来年のクリスマスは、今年のクリスマスを思い出して。
また君と一緒に何をしようとか考えるのかな。
まだ来ない未来さえ本当に大切で、嬉しくて、愛しい。
吐く息の白い12月の夜空。
澄んだ空気の中でいくつもの星が光って。
まるで、大好きな君と重ねる思い出ひとつひとつの様に輝いて見えた。
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