イッキ短編改造計画 | ナノ


そっと腕を伸ばして机に置かれたリモコンを取る。
ガラステーブルの上でカタッと小さく音を立てたそれに焦って、動きを止めた。
緊張気味に隣を見れば、先程と変わらない光景がある。
僕の肩に頭を乗せて気持ち良さそうに寝息を立てる、可愛い、可愛い恋人。

(僕のお勧めはお気に召さなかったかな。)

レンタルしたDVDを僕の部屋で観ているうちに、いつの間にか眠ってしまった彼女に思わず苦笑する。
無防備な寝顔を惜しげもなく見せる君が心から愛おしくて、
そして、ほんの少し憎らしかった。

あんまり警戒されるのも問題だけれど、全く意識されないのはもっと問題だ。
マイ、君はちゃんと分かってるのかな?
今僕、結構我慢してるんだけどな。


マイと付き合って3ヶ月。
その間に色々な出来事が起こって、たくさんの人を傷つけたし、僕も君もたくさん傷ついた。
そうして本当の意味で僕達が恋人同士になってから、もうすぐ半年。

相変わらず僕らの周りは騒がしいけれど、それでも最近は大分落ち着いてきて、
二人で過ごす時間がどんどん増えている。

この半年で、僕は前よりもずっとマイのことが好きになった。
半年前だってどうしようもないくらい好きだと思っていたのに、今はそれ以上に君が好き。
自分がこんなにも人を好きになれるなんて考えてもなかったから、すごく嬉しいんだ。
でももっと嬉しいのは、君もきっと同じように思ってくれているってこと。

(だけどやっぱり僕の気持ちの方が大きいかな。)

ふと視線を落とせば、何かおいしいものでも食べる夢でも見ているのか、
時折むにゃむにゃと口元を緩ませるマイの安心しきった寝顔。

なんでだろうね。
少し前だったらその油断しすぎな唇を奪っていただろうに。
好きになればなる程、君に手を出せなくなっている自分がいた。

今までどうやって自然にできていたんだろう。
もし迫ったとして、少しでも嫌がられたりしたらショックで立ち直れない自信がある。
他の女の子と付き合っている時は、3ヶ月で何の苦労も無く事が運んでいた筈なのに、
マイが相手だとこうも違うものかと自分でも信じられないくらいだ。

時間制限がない恋愛は、どんなペースで歩み寄ったらいいのか分からない。

抱きしめたい。キスしたい。触りたい。
その欲求はマイに対するものの方がずっと大きいと思う。比べることでは無いけれど。
今現在だってその欲求と戦うのに必死なんだって君が知ったらどう思うかな。

「そろそろ起きないとくすぐっちゃうよ?」

普段より少しトーンを落とした声で話しかける。
僕の息がかかって、整った栗色の前髪がさらりと揺れた。

「ほっぺたつねっちゃうよ?」

同じトーンで言葉を続けながら、薄くチークが乗った柔らかそうな頬を人差し指でするりと撫でる。
緩く結ばれた赤い唇が、ふっと揺れた気がした。

「……キスしちゃうよ?」

これは聞こえて欲しくなくて、より小さく弱くなった言葉。
どうしよう。しちゃおうかな。
頭では迷いながらも体は脳からの指令を待たずに、引き寄せられる。
寝込みを襲うような行為に抵抗が無いわけじゃないけれど、磁石のような引力に抗うことなんてできなくて、そっとマイの唇に僕のそれが触れた。


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