もっとねだって。ぼくに私に。
気にしたら負けだなんて頭では理解していたって、やっぱり感情に蓋をすることなんてできない。
子供っぽいと自分自身思うけれど、もうこれは生まれながらの性格なのだろう。
負けず嫌いで勝気で、素直じゃなくて可愛くない。
それが私という人間だ。
「撫子さん、でしたっけ?円と付き合ってるって本当なの?」
「……ええ、まぁ。」
CZ政府から身を隠しつつ、この壊れた世界で暮らし始めて数カ月。
央率いるこの反政府組織は、少しずつネットワークを広げて来ていた。
登録された一般人、登録を逃れていた一般人はもちろんのこと、最近ではCZ政府からこの組織へ寝返る人も増えている。
私に質問を投げかける目の前の女性も、元CZ政府のメンバーの一人だった。
「ふぅん…、ちょっと意外だなぁ。円の好みのタイプとは違うじゃない?あなたって。」
違うじゃない?なんて聞かれても私には分からないと知っていて言っているのだろう。
はっきり言って感じが悪い。
円を呼び捨てにしている時点で気に入らないし、あからさまに私に対して敵意を示している。
「ごめんなさい、特に要件が無いならもう行きますね。調査が残ってますから。」
ここに長居するのは得策でないと判断し、小さくお辞儀をして踵を返すと、後ろからぐっと肩を掴まれる。
驚いて体を震わせる私の耳元で、先ほどよりも少しだけ低い声が響いた。
「円…、口でさせるのが好きでしょ?あなた口が小さいから大変ね。」
くす、と笑い声で私の髪を揺らして、その女性は去っていく。
残された私の体は動くことを忘れたようにその場を離れることができない。
耳の奥に、いつまでもあの人の声が残っていた。
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