たどたどしい私の言葉に円は小さく笑って、それから私の手をそっと取る。
流れるような動作で導かれる指は、唇に触れるか触れないかの場所でピタリと止まって。
薄紫の瞳が私を捕える。
「特別何かをしてほしいわけじゃありません。ただ…ただこうしてぼくの傍にいてください、今日一日。」
指先に落とされた吐息と共に、穏やかにそう言った円。
愛しくて、胸がきゅうっと狭くなった。
ぼくだけのあなたが欲しいなんて凄く大胆な発言をするくせに、私に触れることに関してはいつもどこか遠慮がちな円だから。
円にとってだけじゃない、私にとっても特別な今日という日だから。
「……それは困るわ…。」
「…困る?」
「だって円がわがまま言ってくれないと、私の誕生日の時に好きなこと言えなくなってしまうもの。」
「…………。」
本日二度目。紫水晶をぱちぱちと瞬かせた円。
ふ、と浮かべた笑顔は酷く艶っぽい。
「いいんですか?今更訂正なんて聞きませんけど?」
私の髪の毛を一束、するりと指で遊ぶように絡ませて。
まるで見せつけるみたいに音を立ててキスをした円を、軽く睨む。
「…望むところよ。」
高鳴る鼓動を感じながら、甘い期待にそっと目を伏せた。
彼が意地をはると、私も意地をはってしまう。
私が素直になると、彼も素直な気持ちを曝け出してくれる。
鏡みたいな私達の関係。
一番特別になりたいという想いは私も同じで。
どんなに傷つけあっても、伝わらない想いにもどかしさを感じても。
この胸を占める気持ちだけはずっと変わることが無い。
「撫子さん………。」
口付けの合間、苦しいくらい愛しげに名前を呼ばれて。
ぼやける程近くで重なる視線。
向かい合った円の瞳に映る私は、疑いようも無いくらいあなたに恋をしていて。
私の瞳に映る円も、きっと同じ。
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