円短編改造計画 | ナノ


この世界へ来てから、どれくらい時が経ったのだろうか。
毎日皆で賑やかに課題をこなしていた日が、凄く遠い昔みたいに感じる。

窓から見える景色は、どんなに月日が過ぎても変わることが無い。
薄灰色と赤が混じったみたいな淀んだ空と、壊れた街。

それを見慣れてしまいそうな自分自身が、時々叫び出したくなるくらい怖かった。


「また外を見てるんですか。」

背中越しにかけられた声は、振り返らなくたって誰のものなのか分かる。
数か月前までは困惑していた彼という存在。
なのに今は、その抑揚のない声にどこか安堵を覚えていた。

「……女性の部屋に勝手に入ってくるのはやめてもらえないかしら?」
「ちゃんとノックしましたよ、気付かなかったのはあなたの方でしょ。」
「…………。」

そんなにぼうっとしていたのだろうか。ノックにも気付かない程。
一瞬腑に落ちない顔をした私を見て、円がふ、と口角を上げる。
よく考えたら彼がノックをして入ってくることなんて一度も無かった。

(……からかわれたのね。)


「なあに、何か用でもあるの?」

不機嫌を全面に出して円に問えば、彼は更に笑みを深めた後こちらへ歩いて来る。
ベッドに腰を掛ける私の隣に立って、窓の外に目をやった彼はいつも通りの無表情で。
でもどこか静かな怒りのようなものを感じるのは私の気のせいなのだろうか。

「…よく飽きませんね。見てたってなんにも無いでしょ。」
「…………。」

やはり憤っているように感じてしまう彼の声。
この世界に対して円が何を思っているのか、私はまだそれがよく分からない。
ただ、いつも何かを耐えているみたいに見える彼から、気付くと目が離せなくなっていた。

だって考えてみたら当たり前なのだ。
どんなに容姿が変わってしまったって、私という存在を知らなかったって、やっぱり円は円に変わりないのだから。

「お花見でもしませんか?」
「は、はい??」

突然脈絡の無い言葉を投げかけられて、思わず声が上擦った。
何故いきなりそんな話になったのか、あまりにこの世界に似つかわしくない単語に戸惑う。
お花見といえば桜で、確かに季節的にはソメイヨシノが花をつける時期ではあるけれど。

(この世界で桜なんて、…雑草すらほとんど見かけないのに。)

何か含みがあるのだろうか、と彼を窺っていると不意に掴まれた手。
どき、と心臓が跳ねる間も無いまま、その手を引かれて部屋を後にした。



灰色の壁に囲まれた長い廊下は、どこまで行っても同じ光景で。
たぶん一人だったら確実に迷ってしまうだろう道を、円は無言で歩いていく。
私の手を握ったまま。

恐らく棟の一番端にあると思われるエレベーターに乗り込んで、押されたボタンは最上階。
しんと静まり返った狭いエレベーター内で二人きりで。
繋がった手にやたらと意識が集中してしまう。

恥ずかしくて堪らないのに、離して欲しいと言うのも何だか違う気がして。
私は口を紡いだまま、円の隣でただ階を過ぎるごとに点滅する数字を見ていた。


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