円短編改造計画 | ナノ


円は私に一度も口でしてほしいなんて強請ったことが無い。
というか、彼がこういう行為をする時に私に何かを要求したことが無かった。
私はもちろん円が初めてだから、そのことを疑問や不満に思うことすら頭に無かったが、あの女の人の一言でそれはもうもの凄く意識してしまった。

円は私が初めてではない、という事実を。

息が苦しくなるくらい落ち込んだけれど、それよりも「悔しい」気持ちの方が勝った。
そんな所が私らしいのだと思う。
勝ち負けの問題じゃないということは分かっているが、それでも負けたくない。
私だって円を喜ばせることができる筈なのだから。

しかし、円は私にそんなことを望んでいないと言い放った。
戸惑っている彼の目を見て、恥ずかしさと情けなさが込み上げて泣きたくなる。

「………ごめんなさい。」
「撫子さん、何かあったんでしょ?隠さないで言って下さい。」
「何かあったことは事実だけれど、…円には話したくないわ。お子様の私にだって女のプライドがあるの。」
「…そのプライドってやつは今しようとした行為で保たれるものなんですか?」
「…………。」

どうなんだろう。
彼女の挑発に乗って円にこんなことをして、それで私は満足するのだろうか。
答えは恐らく違う、と思う。
やはりきちんと円と向き合わないと何も解決しないのだ。

「……最近政府から来た女の人がいるでしょ?」
「え…?あぁ、医療関係の部署にいた人でしたっけ。その人がどうかしたんですか?」

円の余所余所しい言い方に少しだけ苛立ちが募る。
別に関係があったことを隠すことなどないのに。むしろ隠された方が腹が立つ。

「その人に円が口でしてもらうのが好きだって聞いたの。だから私も円を喜ばせたいと思ったの。なのにどうして拒むの?円が私に求めていることって何?何も求めてなんていないんじゃないの??」

怒りが背中を押して、感情が溢れるままに言葉を投げつける。
口にしてみて初めて自分が何に対して対抗意識を持っていたのかがはっきりと分かった。

私は円にもっと自分を求めてほしかったのだ。
意地の悪い事を口では言いながらも、どこか私に触れることをいつも遠慮している円だから。
あの女の人に強請る以上の事を、もっと私に対して強請って欲しかった。


しばらくの間部屋の中を沈黙が支配する。
その重苦しい沈黙を破ったのは、円の深いため息だった。

「…あなたが何の話をしているのか理解できませんが、ひとつだけ言わせてもらえばぼくがあなたに何も求めてないなんてことがあるわけないじゃないですか。」

そう言って、円の足元に座りこんだ私の頬をその温かい手で包み込む。
ふわりと柔らかな上着の感触が伝わって、少しだけくすぐったい。
緩やかに顔を上げられて、彼の紫水晶色の瞳が私を捕えた。

「もっとぼくの傍にいてください。」

告げられた言葉に、トクンとひとつ跳ねた心臓。

「ぼく以外の人と仲良くしないでください。もちろん央も含めて。」
「…円。」
「四六時中ぼくの目の届く場所にいてください。意地はらないでもっとぼくを頼ってください。たまには好きだって言ってください。夜は必ずぼくと一緒のベッドで寝てください。」

次々に落とされる言葉と、徐々に近くなる円の酷く優しげな瞳が心を揺らす。

「…もっと、ぼくのことだけを考えていてください。」

唇が重なる寸前にそう言われて、そんなの言われなくても当然なのに、と反論する時間もないまま互いの唇が合わさった。
柔らかな感触をなぞって確かめる様に、円の温かい唇が私のそれの上を滑る。
頭の芯が痺れてしまうから、もう本当に円のことしか考えられなかった。

私が円に強請って欲しいと思う事はそういうことじゃないのにな。

ぼんやりと考えたけれど、でももうそんなことどうでもいい。
円の言う要求の矛先は私でしかあり得ないと、素直に感じることができたから。

だからもっと。

もっと強請って、私に。





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