円短編改造計画 | ナノ


当日。

週末のテーマパークはやはり多くの人で賑わっていた。
イベント中ということも手伝って、きっと普段以上の人の数なのだろう。

「すごい…。どこ見てもカボチャだらけだわ、流石ハロウィンね。」
「ピンク色の隠しカボチャを10個全部見つけてスタンプを押すと、景品がもらえるそうですよ。
やりますか?撫子さん意外とこういうの好きでしょ?あなた負けず嫌いですもんね。」
「…ちょっと気になる言い方だけれど、…やるわ。」

ぐっと拳を握りしめて入場の際に渡されたスタンプカードをバッグに仕舞う彼女。
考えてみればこんなにちゃんとしたデートをするのは久々で、楽しそうな撫子さんを見ている自分自身もやはり浮き足立っていた。

自然と二人とも笑顔が増えて、いつもは喧嘩腰な会話もどこか柔らかい。
お互いに違う味のポップコーンを買い、彼女がぼくの味の方が美味しいと言えばそれと交換してあげたりしながら園内を歩く。

普段だったら人前で必要以上に接触することを嫌がる彼女が、今日は周りの雰囲気に流されているのかガードが緩い。
アトラクションに並ぶ無防備な横顔にキスをしても、甘い顔で睨むだけ。
それどころかいつもは手を繋ぐことすら少し恥じらう彼女が、ぼくの腕に自分の腕を絡ませていた。

基本冷めた性格の二人だが、今日は普段より少しだけ自分の感情に素直になれている。
ふわりと漂うキャラメルの香りのように、ぼく達は甘い時間を過ごしていた。


しかし、午後になり閉館が近づくにつれて彼女の様子は変わっていった。
話しかけてもこちらを見ずに、辺りを見回しては溜め息ばかりをついている。

「あとひとつなのに……どうして見つからないのかしら…。」

きょろきょろと落ち着きなく身体を揺らし、カボチャを探す撫子さん。
時折人とぶつかりそうになる度に腕を引いて彼女を引き寄せる。
彼女はスタンプラリーを楽しんでいるように見えなかった。
どこか必死というか、まるで何かに追い詰められているかのようだ。

「そんなに余所見していると危ないですよ、ちゃんと前見て歩いて下さい子供じゃないんですから。」
「あ、ごめんなさい……。」

少しきつい言い方になってしまっただろうか。別に怒っているわけではないのだが。
しかしどこか上の空の彼女に対して若干不満に思う所があったのかもしれない。
途中までは何も問題なく楽しんでいたはずだったのに…。

「ねぇ、もう一度さっきのアトラクションまで戻ってもいいかしら?見落としていたのかもしれないから。」
「べつにいいですけど…、随分熱心ですね、そんなにその景品が欲しいんですか?」
「あ、そう。そうなの、絶対欲しいの。」

まあ、彼女がそうしたいと言うならばいいのだが、何だか腑に落ちない部分があった。
文句の言葉が喉まで出てきたが、今日は喧嘩をしたくない。
そう思い、言葉を飲み込んだ。

prev / next
[ back to 円top ]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -