円短編改造計画 | ナノ


突然重なった唇は、驚く程熱かった。

「んっ……、んぅっ!?」

ぬるりとした感覚に全身が震える。
こんなキスはしたことがない。初めて知る、耐えがたい程の感覚。
私の口内を容赦なく暴れまわる円の舌に、生まれた感情は恐怖だった。

「ぃ、やっ……っ、っふ……んっ!」

このまま私ごと食べられてしまうのではないかと思う程に深く入り込む円。
必死に抵抗しても、腰に腕を回されて密着する彼の体はびくともしない。
息をする隙すら与えられずに送られる円の熱に、ただ涙が溢れた。

「―――っつ……!」

ぎり、と言う音と共に円が私を解放する。
痺れている口の中に、鉄の味が広がった。

耳が痛い程の静寂の中に、お互いの荒い呼吸だけが響く部屋。

円を怖いと思ったのは初めてだった。


どうしてこんなことになってしまったのだろう。
私はただ、円を理解したかっただけなのに。

溢れて来る涙に邪魔をされて声が出ない。
自分が悲しいのか怒っているのかも分からなくて、ただ円を睨みつけた。

俯く彼の前髪の隙間から覗く瞳に、驚いて息が止まる。

(どうして円の方がそんな顔してるのよ…。)

泣いているのは私なのに、何故か円の方が酷く傷ついた顔をしていた。

まるで迷子の子犬の様なその紫水晶の目。
今にも泣き崩れてしまいそうに揺れるその瞳から視線を反らすことができない。
こんなに頼りない表情を浮かべる円を、今までに見たことがなかった。

「……一年なんて、将来的に考えれば取るに足らない時間です。」
「え…?あ…、そうね…。」

何の脈絡も無く投げられた言葉につい普通に答えてしまった。
一瞬何の話かと困惑したが、すぐに央の留学の話なのだと気付く。
思わず普通に答えてしまってから、何でこのタイミングでその話を持ち出したのだろうと今更ながらに疑問に思った。

「長期の休みなんかには帰ってくるでしょうし、実際はそんなに長い期間離れたりしないわよ、きっと。」

やはり央の留学が円にとってショックだったのだろうか。
先程の行動はその反動によるものなのかもしれない、そう思うと少しだけ心が軽くなる。

「…………。」
「円……?」

私の言葉が聞こえているのかいないのか、彼は黙り込んでしまった。
円の眼はどこか虚ろに床に落とされて、彼の感情がうまく読みとれない。
もっとも、最近の彼の考えていることなんて私には少しも分からないのだけど。

「…ぼくは、いつも…。」

そう言ってまた黙ってしまう円。
今にも崩れ落ちてしまいそうな彼の体が、やけに小さく見えた。
彼のそんな姿を見ていると、胸がぎゅっと締め付けられるように疼く。

理屈なんて分からないけれど、今すぐに彼を抱きしめなければいけない気がした。



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