気が付くと、円と女の子達はすぐ近くまで来ていた。
しばらく目を離していた間に、女の子の数が微妙に増えたように思う。
目の悪い円は、もうほとんど目の前という距離でやっとその視界に私が映ったようだった。
薄く開いた水晶色が私を捕らえると、先程とは違うピリリとした緊張が走る。
自分の恋人に対して、こんな緊張を抱くことをおかしいとは思うのだが……。
「すみません、待たせてしまいましたか?」
「あ、…ううん。大丈夫よ…。」
やや早足で人の輪から抜け出て来た彼の背中で、ええー、という不満の声が上がる。
賑やかだった女の子達は、私の顔を見た途端一様に黙った。
あからさまに棘のある視線を全身に浴びて、この上ない程居心地が悪い。
「行きましょう。急がないと準備が間に合いません。」
そう言って私の腕を軽く引いた円。
こんな風に、彼が私を自然にエスコートするようになったのはいつからだっただろう。
基本的に素直でない所は変わっていないけれど、彼の行動や言動は以前より紳士になって、つまらない内容で喧嘩することも減っていた。
(いいこと、よね……。)
それは偏にお互いの精神が成長したという証で、二人が良い関係を築いている証。
……それなのに、どうして私の気持ちはこんなに落ち込んでいるのだろうか。
「…撫子さん?大丈夫ですか、随分ぼんやりしてますけど。具合でも悪いんですか?」
またそうやって円は私を気遣う。
「大丈夫よ。少し、考え事をしてただけ…。」
私がそう答えれば、そうですか、と一言だけ。
そしてそれ以上深く追求してくることは無い。
本当はあの子達のことを聞きたい。けれど私はその言葉を飲み込んでしまう。
大丈夫。
円の問いかけに対してそう返すことが増えていた。
少し前まで、会えば必ず一回は喧嘩していた私達。
円が大人になったのだから、ひとつ年上である私が雰囲気を壊すわけに行かないから。
最近、胸を占めるこの違和感。
優しくなった円と過ごす日々。
私達の間に喧嘩は減ったけれど、
私は円の考えていることが以前より分らなくなっていた。
「それでは僕のパリ留学、その成功と無事を祈って、乾杯ー!!!」
央の明るい声と共に、グラスのぶつかるカチンという小気味良い音が響いた。
「つーか、普通主役が乾杯の音頭とるか?」
「あはは、央らしいね。」
トラと鷹斗が笑う。
「パリか。私ももでる業の撮影で何度か訪れたことのある国だ。なかなか趣のある国であったな。」
「終夜、お前さりげなく自慢してるだろ…。」
終夜と理一郎も笑う。
皆が思い思いに言葉を発して、いつ集まっても変わらない課題メンバー。
この騒々しくも温かい場所は、どんなに時が経っても私の大切な宝物だ。
ずっとこのまま皆と一緒に過ごせたらいい、そう思っていても時間と共に私達を取り巻く環境は変化していく。
それはどうしたって抗えない現実で、今日もそのひとつだった。
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