カカシ先生長編改造計画 | ナノ


支度を済ませて玄関に行くと、カカシさんは口布を上げながら靴を履いている所だった。
いつも思うけれど、忍びの皆さんが履いているこの靴――というかサンダルはつま先が無防備だけどこれでいいのだろうか。
そんなことをぼんやりと考えていると、彼が不意にぽん、と私の頭に手を乗せた。

「ちょーっと遠いからね、瞬身で行くヨ」
「うー、あれ苦手なんですけど……」
「ハハ、大じょーぶ。目つぶって掴まってればすぐだから」

目を瞑ってたって怖いものは怖いんだけど。そう心の中で呟きながら私はカカシさんに身を任せた。彼が私を素早く横抱きにしたかと思うと、ゴオッという耳鳴りがして。
次の瞬間にはもう目の前の景色が変わっていた。

彼の首にぎゅっと腕を回して掴まったまま辺りに視線を巡らせれば、そこは森の中にある広場のような場所。
見知らぬ景色に目を奪われたままの私を抱きかかえたまま、カカシさんは少しだけ歩く。
黄金に色を変えた芝へと足を下ろすと、サァ、と心地良い風が通り抜けていった。

木の葉マークの刻まれた石。
連なるように彫られたいくつもの名前。

ひっそりと佇むようにあるそれは、戦地で命を落とした者の名を尊とく包む慰霊碑だった。

刻まれた一つの名前を、人差し指でスッと撫でる彼をただ目で追う。

「……こいつは、うちはオビト。俺の親友だよ」

漆黒の瞳に複雑な想いを映して、彼は慰霊碑に刻まれた親友の名を見つめている。
脳裏に浮かんだのは、紅さんとアンコさんの言葉だった。

――彼が亡くしてしまった、大切なひと。

「オビト、この子は雅美ちゃん。ミナト先生がこの世界に連れ来たんだよ。まったく、あのヒトはほーんと何考えてるんだかネェ……」

柔らかく落とされる声に耳を傾ける。
【オビト】という名前には聞き覚えがあった。

「オビト…さんって、カカシさんの枕元の写真に写ってる男の子ですよね?」

以前尋ねたことがあった、枕元に飾られた写真のこと。
カカシさんの部屋はとてもシンプルで飾り気が無いけれど、唯一枕元には二つの写真立てがあった。

一枚は先生であるカカシさんが教え子と映したもの。
もう一枚は、全く同じ構図で彼の子供時代に写されたもの。
少し生意気そうに見える幼少のカカシさんの横にいた、黒髪にゴーグルを着けた男の子。
その元気そうな男の子の名前を問えば、うちはオビトだと教えてくれた。
あの時彼はそれ以上何も言わなかったから、私も何も聞くことができなかったけれど。

「あの頃の俺は頭でっかちで生意気な糞ガキでさ。二言目には規律やら掟やら、大切なことなんて何も分かっちゃいなかった。……そんな馬鹿な俺を庇ってオビトは死んだんだ」

刻まれた親友の名を見つめているようで、カカシさんのその視線はもっと遠い何処かを見ているようだった。
決して大きな声では無い、しかしはっきりとした口調で彼は言葉を続ける。

木々をなでる風に銀糸を揺らして、慰霊碑に寄り添う背中。
抱きしめて捕まえていなければ今にも消えてしまいそうな程、酷く脆く見えた。


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