カカシ先生長編改造計画 | ナノ


熱いシャワーを浴びたところで、体の真ん中は冷え切ったままだった。

バスルームを重い足取りで出れば、汚れていたはずの廊下が綺麗に拭かれていることに気付く。
脱ぎ捨てた靴は整えられ、壁に付いた泥も血液も拭われて。
それら全てを雅美ちゃんがやってくれたのだと思うとまた軋んだ心臓。
肺が押し潰されるような感覚に、うまく呼吸ができない。

彼女の部屋の前を通り過ぎようとして自然に止まった足。
ドアの向こうには雅美ちゃんの気配があって、無機質な木の表面を撫でようとした手の平が酷く滑稽だった。

だって馬鹿みたいでしょ。
余計な感情が大きくなる前に――なんて今更誤魔化すことすらできやしないのに。

もう彼女とは離れたほうがいいだなんて、本当は微塵も思っていない。
ずっとこの扉の中に閉じ込めて、この哀しい手の平で守っていたい。

殺していた本音は結局こんな風。
彼女へと抱く感情何もかもが、恐らく俺にとって全て初めての経験で。
奇跡みたいな出会いの中で抱いてしまった、決して報われることの無い思い。
けれどこれが隠しきれない己の本心だと認められたなら、それだけで俺は幸福なのかもしれない。
それと同時に、酷く不幸だとも思った。

「っ……」

風呂に入ったせいで身体に残る毒が廻ったのだろう、頭がふらつく。

(解毒剤を追加して飲んだほうがいいみたいだな……)

触れられないままのドアをそっと指だけでなぞって、俺は彼女の部屋の前を離れた。


リビングに置かれた棚の中の薬箱から丸薬を取り出し、奥歯で噛み砕く。
そんなに強い毒では無いはずなのに、恐らく処置が遅れたせいだろう。視界が歪んでいる。
薬が効くまでは安静にしていなければ。
そう考えて部屋へ戻ろうと頭を上げた時、強烈な立ちくらみに襲われた。



―――――――――



リビングから聞こえてきた大きな音に、ビクリと体が揺れる。
怪我をしているカカシさんの姿が脳裏に浮かんで、私の体はほとんど無意識に動いていた。

急いで音の先に向かって、そこにあった片膝をついてうずくまる彼に一瞬息が止まる。

「――っ、カカシさん!大丈夫ですか!?」

駆け寄ってカカシさんの肩に触れようとした指先が、寸前で迷った。
そんな私の様子を見た彼が薄く笑う。

「ありがと。俺は大じょーぶだから……雅美ちゃんは部屋に戻りな」
「でも……」

いいからいいから、そう軽く告げるカカシさんは私の顔を見ないまま立ち上がろうとするけれど、すぐに足に力が入らず崩れ落ちてしまう。
喉が熱くて、鼻の奥が痛くて、もう堪らなくて苦しくて。
躊躇った手を今度こそ伸ばし、彼の右腕を自分の肩にまわさせた。

「雅美ちゃ――…」
「怒鳴りたければ怒鳴ってください!なんて言われたってこんなカカシさんを放っておけませんから!」

自分からこんな大きな声が出るなんて驚いたけど、私以上にカカシさんの方が驚いているようだった。
とにかく必死だった私は、目を見開いて黙ってしまった彼を無視して大きな体を支える。
布越しに触れた肌からでも分かる程の高い体温。
例え拒否されていたとしても、この体温に安心を覚えてしまうのだから呆れてしまう。
込み上げる涙を堪えながら、彼を寝室まで半ば引きずるように連れて行った。

肩で息をするように呼吸を乱すカカシさんは、たぶん意識を保つだけで精一杯だったのだろう。
ボールに割り入れた氷水とタオルを持って戻った時、既に彼は眠りに落ちていた。


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