出逢い
浅い眠りの中、ふと懐かしい気配を感じた。
これは夢なのだろうか、と、まだ闇に包まれた部屋の中で緩やかに覚醒していく。
(―――っ!!?)
確かな違和感を捕らえ、バッとベッドから飛び退く。
目を疑った。
(どこから!?いつから!?)
俺の真横には、知らない女が眠っていた。
仮にも上忍である自分が、こんなにも接近されるまで人の気配に気付かないなんてあるだろうか。
俺は人一倍鼻が利くし、気配にも敏感な方だというのに。
女は激しくベッドが軋んだことに驚いた様で、勢いよくその身を起こした。
キョロキョロと辺りを窺う女の姿から一瞬も目を離さず、混乱した頭を必死に落ち着かせる。
本当に訳が解らない。
隣に現れるまで全く感じられなかった女の気配は、今は呆れる程駄々漏れだ。
気配を殺して部屋の隅に移動し、左腕で顔を隠して右手でクナイを構えた。
まだ目が慣れないのか、不安そうにしている女の様子から、恐らく忍ではないのだろう。
「動くな…。」
殺気を込めた低く抑揚のない声を放つと、女はビクッと身体を震わせ反射的に後ろへ下がった。
手を付こうとした場所にはもうベッドはなく、ドタッと豪快な音と同時に、「フギャッ!」という何とも情けない声が響いた。
瞬間的な判断力の無さと、その俊敏とは言えない行動から、女が忍ではないと確信して少しだけ安堵する。
(ま、まだ油断はできないけどネ……。)
「だ、誰!?」
ベッドの向こう側から顔だけ覗かせて、身体の中から搾り出す様な声を放つ。
女は明らかに怯えていた。
「誰ってあのね、ソレこっちの台詞でしょーヨ。ここ俺の部屋なんだから。」
「な、え…?ここ、…なんで………。」
女の様子を見る限り、どうやら自分の意志でここに居る訳ではないように思える。
演技をしている可能性もあるが、眼球の動きと挙動からそれも考えにくい。
(とにかく、五代目の所へ連れていくにしても、軽く状況は把握しておかないとマズイだろうな。)
俺はこの時、面倒なことに巻き込まれたら嫌だねぇ、なんてことを考えながら、何故か不思議な高揚感を覚えていた。
自分でも理解できないこの感情に戸惑う。
あまりに非日常的な出来事に、アドレナリンが騒いだのだろう、そう解釈することにした。
目の前で震えるこの女が、俺の人生を、運命を変えることになる。
そんなこと、この時の俺に分かる筈もなかったんだ。
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