カカシ先生長編改造計画 | ナノ


(雅美さんがルンルンしている……)

受領の判を押す手元を見るだけで、彼女の機嫌がとても良いことが分かった。
最近少し元気が無かったから何よりだ――と思いながらも僅かに胸が痛む。
気分転換に美味しい御茶菓子を出したって、笑わせようと過去の恥ずかしい失敗談を暴露したって、結局彼女を笑顔にさせるのは彼の存在だから。
目の前に突き付けらるその事実に、やるせない想いを抱いてしまう自分自身が信じられない。
否、信じられないのでは無く、きっと信じたくないのだろう。

正直な話、自分が抱いているこのもどかしさの正体がいまいち掴めない。
彼女の紹介があった日に、カカシ先生にあそこまで牽制されておいて。
お互い隠す気もないような二人の想いも、俺には嫌というほど分かりきっていて。
例えば付け入る隙があったとしたって、そんなことする気など一欠けらすら無い。

けれど、苦しい――。

(……これは、恋情なのか?)

どこにでもいるただの女性だ。
忍でない彼女とは相いれない部分も多い。
恋情を抱く程、彼女の何を知っているわけでもない。

「イルカさん、このファイルお借りしてもいいですか? もう使わないならついでに片付けておきますけど」

さらりと揺れた濃茶色の髪から香ったのは、もう覚えてしまった彼女の甘い匂い。
一際大きく跳ね上がった鼓動に、今まで何を考えていたのかなど跡形も残さず消え失せた。
高鳴る胸と速度を増す脈拍。
結局のところそれが答えなのだ。

「……雅美さん、少し早いですけどもう上がっていいですよ」
「え、でも……」
「もう遅番の人も来てますから。飲み会、楽しんできてくださいね!」
「ふふ、ありがとうございます」

ほんの少しだけ恥ずかしそうに微笑んだ彼女に、胸の奥がふわりと溶けた。

もともと俺は何も望んでいない。
沈んでいた彼女がこうして笑ってるならそれだけでいい。
そう心から思えるのだから大丈夫だと、静かに確信する。

(大丈夫……大丈夫だ)

胸の奥で呟いたけれど、感情なんてどうせ思い通りにならないことは分かっていた。



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