「さて、もう遅いし寝ますかネ」
パン、と軽く手を打ち合わせてそう言えば、雅美ちゃんは少しだけ困ったように目を泳がせる。
そして、おずおずと右手を上げた。
「あ、あの…私、これからもここで暮らして、いいですか……?」
「…………」
きゅっと眉尻を下げ、子犬のような目を自分に向ける姿に頭の中で苦笑いする。
なんというか、自分の気持ちを自覚してからというものいちいち雅美ちゃんが可愛く見えて仕方ない。
ポンポンと頭を叩いて笑って見せれば、ホッとした様子を見せた彼女も口元を緩ませた。
ベッドの上、少しだけ体をずらして掛布団をふわりと捲る。
「おいで?」
俺の行動に一瞬目を瞬かせた雅美ちゃんは、恥ずかしそうに、けれど嬉しそうに顔を赤くしてそっと布団へと入ってきた。
冷えてしまった小さな肩に布団を丁寧に掛けて、そのまま優しく頭を撫でる。
目を閉じて気持ち良さそうに身を任せる彼女。
心が和むと同時に、重い不安が胸を過った。
雅美ちゃんには触れただけで人の傷を完治させてしまう力がある。
それは先程起こった事実から間違いは無いだろう。
もしこの事が周りに知られたらどうなるか、そんなこと想像するまでも無い程危険だと分かる。
こんな都合の良い体質、利用しようとする輩が出るに決まっているから。
それは敵に限ったことでは無い。
この里の者でさえきっと彼女の存在を畏怖と認め、それ相応の扱いになるだろう。
たとえ五代目火影であっても、このことが知れたら何をされるか。
少なくとも雅美ちゃんの身体をより詳しく調べ、敵に知れる前に監禁するか、最悪の場合……
脳裏に浮かんだ考えに、背筋がぞっとした。
ふと視線を落とすと、きっと疲れていたのだろう雅美ちゃんはもう寝息を立てていて。
相変わらずの無防備さにまた苦笑を零した。
顔にかかる髪の毛をさらりと梳いて、一束掬い上げた艶髪の先に口付けを落とす。
「おやすみ……雅美ちゃん」
君を想う気持ち。
この気持ちを彼女に打ち明けることは無いだろう。
雅美ちゃんが無事に帰れるその日まで、どうかこのまま穏やかで幸せな時間が続くように。
そう心から祈り、俺は眠りにつく。
ミナト先生が俺と雅美ちゃんを引き合わせた理由はまだよく分からない。
――けれど、少しだけ何かが見えたような気もしていたんだ。
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