カカシさんに守られるばかりで、何も返すことができない自分がずっと歯痒かった。
何が起こったのか全然分からないけれど、私の力がカカシさんの役にたったのならこれ以上に喜ばしいことは無い。
クナイが刺さった傷だった、と説明してくれるカカシさんの腕はただ美しい筋肉を形取るだけ。
毒でだるかった体も嘘のように楽になったと言う。
私が触ったから傷が治ったなんて俄かに信じられないことだけど、先程感じたあの衝撃は確かに自分が関わっているのだと告げていた。
(こんなふうに、心に刻まれた傷も癒してしまえたらいいのに……)
少しだけチクリと痛んだ胸。
それでもやっぱり彼の傷を跡形もなく消してしまえた事実は、私にとって本当に大きな意味を持っていた。
カカシさんに対して役に立てることがあるなら、堂々とここに居られるから。
誰に何と言われようと、胸を張って彼の横に並ぶことができるから。
けれど喜ぶ私を余所にカカシさんは難しい顔をして黙り込んでしまう。
浮かれていた気持ちに不安の色が過った。
「カカシさん……?」
私の呼びかけに答えず眉間に皺を寄せたままのカカシさん。
考えてみればこんな異様な事態が起こった時に私は馬鹿みたいに浮かれたりして、まずかっただろうか……
そんな心配に思わず俯くと、不意に両手に感じた温度。
私より少しだけ高い体温は先程まで出ていた熱の名残だろうか。
カカシさんの手のひらは私のそれを包み込んで。
どうして彼の傍はこんなにもドキドキするのに落ち着くのだろうか。
顔を上げればカカシさんの漆黒の瞳が、真剣な眼差しで私を捕えていた。
「雅美ちゃん、このことは誰にも言っちゃだめだ。俺と雅美ちゃん以外の誰にも知られてはいけない……約束できる?」
「っ、はい!」
「ん、ごーかっく!」
咄嗟に良い返事をした私を見て、カカシさんは弓なりに目を細めて柔らかく微笑む。
大好きな、大好きなカカシさんの優しい笑顔。
嬉しくて胸が苦しくて、じわりと込み上げた温かい感情に鼻の奥がツンと痛んだ。
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