どれくらいそうしていたのか。
俺達は抱き合ったままお互いの心音を、呼吸を感じていた。
「……っ、くしゅ!」
耳元で響いた控えめなくしゃみに、思わず小さく噴き出す。
「ぷっ…、ごめーんね、寒かった?」
「ご、ごめんなさい……」
体を離して彼女の肩に毛布を掛ければ、若干怠さを感じた腕。
それ程に長い時間抱き合っていたのだろう。
雅美ちゃんの様子を窺うと、今更ながら自分の行動が恥ずかしくなったのか顔を真っ赤に俯いている。
寝室に流れる穏やかで優しい空気が、やけにくすぐったかった。
どうしたら分からず視線を泳がせている姿に再び込み上げる笑いを堪えていると、雅美ちゃんが突然勢いよく体を離す。
「カカシさん!ね、寝てください!傷に触りますっ!!」
「あ……ハイ」
起こしていた体を寝かそうと彼女が俺の両肩に手を置いた瞬間だった。
――バチンッ!!
何かが弾ける音と共に全身に走った貫くような衝撃。
「――きゃっ!」
「――ッ!?」
一瞬目の前が真っ白になり、花のような、砂糖菓子のような甘い香りが漂う。
トン、と俺の肩に頭を預けた雅美ちゃん。
痺れる頭では何が起こったのか理解できなかった。
「っ、雅美ちゃん!大丈夫!?」
「う……今の、何ですか…?」
力なく倒れ込んだ彼女の体を抱き起こす。
自分の呼びかけにちゃんと答える雅美ちゃんに、ほっと安堵の息を吐いた。
「俺にも分からない……雅美ちゃん、体は平気?何ともない?」
「は、はい。一瞬クラっとしましたけど……」
(なんだ、今のは……。雅美ちゃんに触れられた瞬間走った電気と、あの甘い匂い……)
今起こったことを冷静に分析しようと考えを巡らせた時、ふと自分の体の変化に気づく。
毒の影響で出た熱によりだるかった体は嘘のように楽になり、刺すような刺激で主張していた肩の傷は全く痛みを感じない。
急いで巻いていた包帯を取ると、5センチ程あった傷跡が何事も無かったかのように消えていた。
今起こった事実が全く理解できない。
頭の中が混乱して思考が働かなかった。
――これは、一体……
「それ、私がやったんですか…?」
何が起こったか分からずに目を丸くしていた彼女が、傷の塞がった俺の肩を見ながら問いかける。
「そ、う…みたいだね……驚いた……」
「す…すごい!!」
突然立ち上がって目をキラキラとさせる彼女に、今度はこちらが目を丸くする番で。
「へ???」
「よく分からないけど私、カカシさんの傷を治したんですよね!?すごい!!私、カカシさんの役に立った!!!」
「う、うれしそうだネ……」
唖然とする俺をよそに満面の笑みで頷いて見せた雅美ちゃん。
そんな彼女に、俺はただ瞠目することしかできなかった。
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