カカシ先生長編改造計画 | ナノ


額にあてられた冷たい感触に、ゆっくりと意識が覚醒する。
まだぼんやりとした視界を泳がせれば、ベッドの横でタオルを絞っている雅美ちゃんの姿が目に入った。

「雅美ちゃん……」

小さく名前を呼ぶと、眉尻をきゅっと下げて心配そうに俺を見る彼女と視線がぶつかる。

「具合どうですか?カカシさん、すごい熱で……。パックンが解熱剤を飲ませたほうがいいって言ってたので、これ……」

小さな丸薬と水の入ったコップを差し出した雅美ちゃん。
額のタオルを押さえながら緩慢な動作で体を起こし、受け取ったそれを飲み下した。
素直に薬を飲んだ俺にほっと息を吐いた彼女にコップを渡して、目元を隠すタオルをそのままにぽつりと尋ねる。

「……俺が怖いでショ」

それはほとんど独り言みたいな弱々しい声で。
俯いたままの俺の表情を窺う彼女だが、口元だけでは感情を読み取ることができなかったのだろう。少し考えるようにしてから控えめに答えた。

「そ、そりゃ怒鳴られた時はちょっと…びっくりしたっていうか……」

尻すぼみになる雅美ちゃんの言葉に喉の奥で小さく笑う。
タオルを下ろして視線を上げれば、ほんの一瞬だけ彼女の肩が揺れた。
感情を隠せない雅美ちゃんにまた苦笑してしまう。

「んーん、そっちじゃなくて。見たでしょうよ、他人の血に塗れた俺をさ」

口元に貼り付けただけの笑みを浮かべてはいたが、発せられた声は我ながら驚く程に低くて冷たいものだった。
こんな俺を見たことの無い彼女は何も言えずに黙ってしまう。
自分自身でも雅美ちゃんを怖がらせたくないのか怖がらせたいのかよく分からなかった。
ただ、彼女の傍にいることが限界だという事実だけを切に感じていた。

「もう別々に暮らそう……」
「え……?」

何の脈絡も無い、予想すらしていなかった言葉だったのだろうと思う。
俺の発言に驚いてはっと顔を上げた彼女と真っ直ぐにかち合った瞳。
夜闇の中でもはっきりと分かるその透明な瞳に、全てを見透かされてしまいそうな気がして俺は思わず視線を逸らした。



その瞬間、温度を無くしていたカカシさんの目に戸惑いと迷いが走った。
瞼を伏せた彼が何かから逃げているみたいに見えて。
その何かも分からないまま、追いかけるように彼の手をぎゅっと握った。
反射的に手を解こうとするカカシさんに対して、私の手には力が籠る。

カカシさんの手の平は酷く冷たくて、それが苦しいくらいに切なくて。
言葉なんて何も出てこないけれど、ここでこの手を離しちゃいけない気がした。

「――離、せっ……!」
「嫌です!!離しません!」
「っ、頼むから離してくれ!!俺に触れないで、頼むから……!」

まるで子供が泣きじゃくるみたいな声を上げるカカシさんに、胸の奥が震える。
得体の知れない何かに怯える彼の姿は儚く頼りなげで。
どうかその固く閉ざした内側にあるものを見せて欲しい。
私に何かできるなんて、理解できるなんて奢った考えは無いけれど。

込み上げる感情に膨らむのは、零れ落ちてしまいそうな程の愛しさだった。


カカシさん、そうできるだけ静かに名前を呼ぶと、彼は細く長い息を吐いた。
振りほどこうとしていた手の力も緩み、観念したとでもいうように。

「里の誉れ…なんてさ、結局他人より多く殺してきたってだけなんだよ」

ぽつぽつと、言葉をひとつひとつ探しながら。
カカシさんの落とす声は静寂な空気を揺らす。

「今夜のうちの何人かはきっと殺される程悪い奴じゃ無かっただろうしね、ていうか任務なら善人だって殺すのが忍だからね。友人と呼べる存在だって殺したことあるし……」
「っ……」

思わず息を飲み込んだ私に、カカシさんは「ショック?」と寂しそうに笑った。

「俺は自分が忍であることに迷いも後悔も持ったことなんて無いんだけどねぇ」
「カカシさ……」
「ただ雅美ちゃんには知られたくなかった。雅美ちゃんだけには平気で人を殺す俺を見て欲しくなかったんだよ」

馬鹿みたいでショ?
そう自嘲して呟いたカカシさんを、気付けば力いっぱい抱きしめていた。
辛そうな顔で平気なんて言う彼にかける言葉なんて見つからないから、彼の生きている世界に私が何かを言えるはずもないから。
稚拙な私は、カカシさんをきつく抱きしめたまま大声で泣くことしかできない。

「カカシさんっ…!カカシさん……!」
「――っ…!」

確かめるみたいに何度も名前を呼び続ければ、カカシさんも私を抱き締め返してくれて。
その腕の力の強さにまた切なさと愛おしさが込み上げて。

大きいのに小さなその身体は、しゃくり上げて泣く私と同じくらいに震えていた。


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