カカシ先生長編改造計画 | ナノ


心の底から後悔した。

いつも暗部任務の後は、暗部専用の控え室でシャワーを浴びてから家へ戻っていたというのに。
肩に受けた傷に毒が仕込まれていたせいで頭が朦朧とし、気付けばそのままアパートへと帰ってきてしまっていた。
雅美ちゃんが居る、このアパートに。

血に塗れ、汚れた自分を見た彼女の表情は恐怖そのもので。
それでも自分を心配し手を差し伸べてくれた彼女に向かって、俺はほとんど反射的に怒鳴っていた。
雅美ちゃんの小さな手が俺に触れようとした瞬間、言いようのない嫌悪感を覚えたから。

「……雅美ちゃんが汚れちゃうでしょ」

感じたままに零れた言葉は、まさに俺の気持ちそのもので。
見たくなかった。想像するだけで吐き気がした。
雅美ちゃんの手が血に染まる様を。

「カ…カシさ……」
「シャワー浴びるから、どいて?」

震える声で俺の名前を呼んだ彼女は、少しの沈黙の後に道をあける。
歩く度廊下に滴る血液もそのままに俺はゆっくりと洗面所へと向かった。

汚れた忍服を脱ぎ棄てると、血と泥を含んだ布はドサリと大袈裟な音を立てて床へ散らばる。
蛇口をひねればまず出てくるのは水だったけれど、もうどうだって良かった。
頭からシャワーを浴び、凝固した血液が溶けて排水溝に流れていくのをぼんやりと見てつめる。
徐々に熱くなっていく湯とは対照的に俺の頭は冷えていった。

他人の血で汚れた俺を彼女はどう思っただろうか。
目を閉じていてもはっきりと浮かぶ、雅美ちゃんの怯えきった眼。

忍という仕事に不満など持ったことは無い。
だからあまり意識してはいなかったけれど、やはり彼女には見られたくなかったのだと初めて自覚した。
こんな世界とは無縁に生きてきた彼女に、何も知って欲しくなどなかった。

血で血を洗うこんな穢れた世界で当たり前に生きている俺。
きっともう、そんな俺に対してあの屈託のない笑顔を見せてくれることは無いだろう。


俺は忍だから。


(……丁度いいきっかけなのかもしれないな)

これ以上俺の中の余計な感情が大きくなってしまわないうちに、今離れた方がいい。
俺を信頼してくれた雅美ちゃんが怯える姿など見ていられない。


俺は忍だから。


これからは、陰ながら守っていればいいんだ。
彼女が無事に帰れるその日まで。

(いっそ、この血と一緒に俺も溶けちゃってくれたら楽なのにねぇ……)

朦朧とする頭の隅でそんなことを思って、くだらない思考に声を出して笑う。
鮮血を流し続ける傷なんかより、やり場のない感情を抱えるこの胸のほうが何倍も痛かった。



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