雅美ちゃんはあの夜以来、暗部の任務の日はほとんど必ず俺の部屋で寝ているようだった。
毛布に包まっている姿は可愛いくもあるが、目下悩みの種でもある。
俺がベッドで眠るのに彼女をそのまま床で寝かせるわけにもいかないし、かといって俺が部屋の外で寝れば雅美ちゃんが気にしてしまう。
任務に出掛ける俺を見送る度にあんな寂しそうな顔をする彼女に、自分の部屋で寝なさいね、なんて言えるはずもない俺には結局同じベッドで眠るという選択しか無いのだ。
無防備な寝顔を惜しみなく見せる雅美ちゃんに、邪な気持ちを全く抱かないと言えば嘘になるが、問題はそこでは無い。
彼女が隣に居ると安心して眠れてしまうことが。
彼女の姿を眺めていると、任務による荒んだ気持ちが知らぬ間に和いでいることが。
彼女の存在に癒されているという事実が俺にとっては大きな問題だった。
小さく繰り返される静かな呼吸音と、あどけない寝顔。
心の底から守りたいという気持ちと共に、叶うことのない願望から全て壊してやりたいという思いが葛藤する。
「そろそろ一緒に暮らすのも限界か……」
ぽつりと呟いた己の言葉に胸が鈍く軋んだ。
いつか失うと分かっていながら、何故惹かれることを止められないのだろうか。ただ苦しいだけのこの気持ちなど消せるものなら消してしまいたいのに。
それができないから、こんなにも苦しい。
は、と吐いた重い溜め息は闇に白く溶けた。
答えの無いことで悩んでも無意味だと、泥ついた思いを断ち切るように頭を振り瞬身の印を結ぶ。
最後の印を結び終える寸前に感じた小さな殺気。
同時に左肩にドン、と衝撃を受けた。
肩に深く刺さったクナイを一気に引き抜きそのまま素早く放つ。放った方向から上がった低い叫び声に舌打ちをした。
(くそ…油断した……)
敵の位置と人数を気配で探り、思わず苦笑する。
(おいおい、確か五代目は十名程度とか言ってたよね?どう考えても倍はいるでショ……)
両の目をゆっくりと閉じ、背中の短刀を握る。
耳が痛くなるような沈黙の中に膨れ上がるチャクラと共に、金属のぶつかる甲高い音が闇深い森に響いた。
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