カカシ先生長編改造計画 | ナノ


店の外は、騒がしい中と打って変わって静かで。
時折吹く北風がひやりと気持ち良くて、やっとまともに息ができたような気がした。

彼女のこととなると、俺はおかしい。
何故こんなにも冷静を欠いてしまうのか、自分自身理解に苦しむ。

(髭に指摘されちゃうとはね…。)

自分にとっての彼女の位置は、知らず知らずのうちに一線を越えようとしていた。
否、とっくに越えていたことに気付かなかったのだろう。

保護対象である彼女に個人的な感情など持って接してはならない。
嫌という程分かっているが、彼女はただの保護対象とは割り切れないのが当たり前であり、
恐らく割り切ろうとすらしていなかった。

先生が引き合わせた縁。
彼女は俺にとって始めから特別な存在であることは疑いようもない。

一緒に暮らしているとはいえまだお互い深く知り合っているわけでも無いというのに、こんな感情を抱くこと自体が普通じゃないのだから。

(深く知り合う……?)

己の思考に嘲笑を浮かべる。
あまりに馬鹿げた考えだと思った。

お互いを深く知り合ったところでどうなるというのか。
自分はその先に何を期待しているのか。

彼女にとって俺は作り物の世界を生きる存在であり、俺にとって彼女はいつしか消えゆく存在。
2人に未来などないというのに。

頭の中で、熱が冷めていく感覚がした。


「お前らしくねーな、いつになく余裕ねぇじゃねーか。」

いつの間にか隣に立っていたアスマが、煙草に火をつけながら言う。

「ハハ…。余裕ないことにすら気づいてなかったヨ。」

力なく笑う俺に、アスマの口調は諭すように静かだった。

「あいつがお前にとって大切な存在ならな、ちゃんと見てやれよ。その上で守ってやれ。
あいつ、お前が思ってるほど弱くねーと思うぜ?」
「…そうかもネ。」
「ま、俺はいい傾向だと思うがな。」
「?…何が?」
「お前にもやっと特別な女ができたってことだろ?」

アスマの言葉に、俺は曖昧な笑みだけを返す。
俺をよく理解している友人は、それ以上何も言わなかった。

そうして暫く二人、黒い空の中で弧を描き、優しい光を放つ月を見上げていた。


数分後。
店内に戻ると、俺に気付いた雅美ちゃんが心配そうな視線を向ける。

そんな彼女に、俺はできるだけ柔らかく微笑んだ。

「お待たせ。雅美ちゃん飲んでる?」

普段通りの俺にやっと安心した彼女は、ニコッと笑ってビールジョッキを上げて見せた。


俺はこの笑顔を守ればいい。   
いつか、彼女が無事に帰れる時まで。



 

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