靴を脱ぎ座敷に上がったカカシさんがゲンマを見下ろしてにっこりと笑う。
「ゲンマ、席変わってくれる?」
「…なんでっすか?アンコの隣が空いてますけど。」
「うん。でもここは俺の席だから。」
「は?誰がそんなこと決めたんだっつーの!そんなん早いもん勝ちでしょう。」
途端、賑やかな飲み会の席に似つかわしくない不穏な空気が漂う。
どうしたら良いものかと周りのみんなに目で助けを求めたが、アンコさん達は彼らの様子をまるでワイドショーでも見るような目で見ていた。
「何度も同じこと言わせんなよ…ゲンマ、どいて。」
「わ、私が席を変わります!」
「「へ???」」
揃ったのは睨み合っていた二人のどこか間の抜けた声。
一触即発な空気に耐えられず、私は咄嗟に挙手して名乗りを上げた。
カカシさんとゲンマは目を丸くしていたけれど、私はそそくさと紅さんの後ろを通ってアンコさんの隣へ座る。
しばし訪れた沈黙を破ったのは、アスマさんの豪快な笑い声だった。
「ハハハ!雅美のほうが一枚上手だな!」
カカシさんはばつが悪そうに頭をポリポリかいて、私が座っていた席につく。
変なことにならなくて良かった、と安堵の息を吐いた。
「さて、雅美は何飲む?お酒飲めるんでしょう?」
何事も無かったかのようにまた和やかに始まった宴会。
紅さんの言葉に私は笑顔を向ける。
「ビールお願いします。」
「雅美ちゃん、お酒強いの?」
「弱くはないと思いますけど…お酒は好きですよ。」
「いーねぇ、あんた!気に入ったよ雅美!!」
アンコさんがバンッと私の背中を叩いて嬉しそうに言った。
何だか個性的な人達ばかりで、これからの付き合い苦労しそうだな、なんて思って。
でもそれが全然嫌だとは思わないから、たぶん私はこの里を、この世界を好きになれそうな気がした。
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