以前カカシさんと見た大きな提灯。
酒酒屋の店先にはホワイトボードが出ていて、そこには【本日貸切】と書かれていた。
(ほ、本当に貸切だ…。あぁー…緊張するっ!!!)
深呼吸をして気合を入れてから、と思う間も無くイルカさんがガララと引き戸を開けてしまう。
彼の後について恐る恐る店に入れば、まだ開始時間前だというのにほとんどの席が埋まっていた。
見慣れた緑色のベストを着た忍達の視線が、入口に立っている私とイルカさんに集まる。
数秒の間の後、オオオーっと店が揺れる様な歓声。
あまりの勢いに思わず後ずさりしそうになった時、一際大きくよく通る声が店内に響いた。。
「ちょっとあんた!こっち来て!こっち座りなさい!!」
何事かと声のする方に目をやる。
そこには黒髪を後ろで束ねた女の人が奥の座敷に座って、満面の笑顔で手招きしていて。
隣には見覚えのある顔が二つ。
「紅さん、アスマさん!」
知った顔を見てほっと胸を撫で下ろした。
「雅美、お疲れ様。ここに座って?」
「あ、はいっ……え、と…。」
行ってしまってもいいのだろうか、とちらりとイルカさんを窺えば、彼は満面の笑みで私の背中を押してくれる。
座敷まで向かう途中、周りの忍者の方々に握手を求められたりして。
たぶん必死の笑顔はひきつっていたと思う。
呼ばれるまま紅さんの隣に座ると、目の前の大きな声の女性がまじまじと私を見つめてきた。
つま先から頭の先まで舐めるようにまるで観察されて、それがあまりにも堂々としているものだから怒る気さえ失せてしまう。
「あんたが噂の受付嬢かー!確かにかっわいい顔してるわね!」
「う、受付嬢…。」
見られたこととか噂とか、そんなことよりも受付嬢という言葉の響きに若干のショックを受けた。
がっくりと肩を落とした私に構いもせず、ビールジョッキ片手にケラケラと笑う女性。
彼女はみたらしアンコという上忍だそうだ。
テーブルには空いたジョッキが数個と白玉ぜんざいが置いてある。
(ぜんざいでビール…、なんて斬新な…。)
思わずじっ、と眺めてしまった私に紅さんがメニュー表を手渡してくれた。
「カカシももうすぐ来ると思うわよ。雅美は、ビールでいいかしら?」
「あんた、カカシと暮らしてるって本当なの??」
ビールでお願いします。
そのひと言を口にする隙も与えてもらえない。
「えーと、はい。カカシさんに面倒見てもらっています。」
「えー!!!本当なんだ!大丈夫なわけ!?」
目を大きく開いて、ずいっと身体を前に乗り出してくるアンコさんに首を傾げる。
「大丈夫って…、どういう意味ですか?」
「だーって、あのカカシでしょ??」
(あのカカシって……。)
「もう食われちゃったわけ?」
「っ!!?」
「…アンコ、あんたもう少しオブラートに包んだ言い方できないわけ?」
「…で、どうなんだ?」
至極自然に会話に混ざってきた声。
頭の上から降り注ぐその声に顔を上げると、そこにはゲンマさんが立っていた。
「ゲ、ゲンマさんまで……。」
「あれ、今ゲンマさんって言った?」
『言うこときかねーと、今度は本当にするぜ?』
数日前の記憶がよみがえる。
「!!ゲンマ!…ゲンマ、お疲れ、さま…。」
「よしよし、やればできんじゃねーか。」
千本を咥えたまま器用に二カッと笑って見せたゲンマさんは、よっこいせ、と私の隣に座る。
一度恨めしそうにゲンマを見た後ふと目線を元に戻すと、紅さん、アンコさん、アスマさんの三人がじっと自分を見つめていた。
「な、なんでしょうか?」
恐る恐る聞くと、アンコさんがドンッとテーブルを叩く。
「だから!里一番の寝業師カカシにやられちゃったのかって聞いてるの!!」
「…アンコお前ねー、人聞き悪いことをそんな大声で言うんじゃなーいよ。」
いつの間に現れたのか、座敷の入り口には呆れ顔をしたカカシさんの姿。
何だか救世主が現れた様に感じてしまった。
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