いただきます、と二人声を揃えて手を合わせる。
並んだ温かい手料理と穏やかな空気は、まだ慣れなくて少しくすぐったい。
「今日はお仕事で何かあった?」
食卓につくと毎日必ず彼女にする質問。
こうしてまず一日の出来事を訊ねるのが恒例になっていた。
しかし彼女から返ってきたのはいつもと違う反応だった。
普段と同じ質問をしたのに、雅美ちゃんはビクッと肩を震わせ眼を見開く。
それは一瞬の事ではあったが、彼女はとても分かりやすく動揺を見せた。
「今日はハロウィンのポスターを町中に貼りに行ったんです。
木の葉の里って道が入り組んでて…迷子になりながらの一日作業でした。結構歩き回ったので、足がぱんぱんになっちゃいましたけど、今日一日でだいぶ地理は覚えたと思います。」
「…そう、大変だったね。」
何事もなかったかのように味噌汁をすする彼女を冷静に観察する。
目を合わそうとしない。
いつもより口数が多い。
箸を持つ手に落ち着きがない。
(……てか雅美ちゃん…。)
「隠し事下手だねぇ。」
「!!げほっ、げほげほっ!」
「あーあー、大じょーぶ?ほらお水飲んで。」
むせて咳きこむ彼女の背中を軽く叩いてやりながらコップに入った水を手渡せば、すみません、と言いながらゴクゴクと水を飲み干す。
あまりにも隠し事に向かない雅美ちゃんに、思わず苦笑してしまった。
「なーに?何かあったの?」
「い、いえ、ほんとに何でもないんです。」
「……そ。」
別に話したくないことを無理やり聞き出すことも無いだろう。
気にならないと言えば嘘になるけれど。
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