カカシ先生長編改造計画 | ナノ


下着コーナーでサクラ達のテンションは更に上がり、雅美ちゃんは完全にあのコンビに振り回されているようだ。さっきから、だめだよー、とか、無理だよーとかいう声が聞こえてくる。

(ハハ、大変そうだね雅美ちゃん。)

「わぁっ!雅美さん、背は小さいけどやっぱり大人なんですね!」
「うんうん!胸大きくってうらやましー!」
「ちょっ!二人とも!声が大きくないかな??!!」

全部聞こえてマス。



数時間後、やっと洋服を買い終え店を出た。

「じゃあ雅美さん、また今度ゆっくりお話しましょうね!」
「おいしい甘味処があるんで、次回案内させてくださーい!」
「うん、楽しみにしてるね!サクラちゃん、イノちゃん、今日は本当にありがとう!」

騒がしい二人が去っていくのを見送ると彼女は、ふぅっと溜息をつく。

「なんかごめーんね。返って疲れさせちゃったみたいで…。」

俺が申し訳なさそうに口を開くと、雅美ちゃんはブンブンと大袈裟に手を振った。

「そんな!楽しかったです!二人の若さに圧倒されちゃいましたけど、
 女の子同士のお買い物は大好きなので。」
「ハハハ、雅美ちゃんだって十分若いでしょーヨ。」
「いやー、やっぱり10代の若さとは違いますよー。」

他愛ない話をしながら、荷物も多いことだし一旦帰ろうということになる。
普通に振舞っているが、自白剤の影響がまだ少し残っているようで彼女の顔色はあまり良くない。

恐らく相当疲労しているだろうに、そんなそぶりをこの子は全く見せない。
頼りなげで幼く見える雅美ちゃんから時折見える、芯の強さ。
極々普通の女の子なのだが、どこか不思議な魅力を持っていた。
彼女が俺のベッドの上に現れて以来、俺は何度も心の中で問いかけていた。

ミナト先生、あなたの目的はなんですか?
なぜ、雅美ちゃんを俺のもとに連れてきたんですか?

まだ俺は、その答えを見出せないでいる。





俺達がアパートへ戻る頃には、家具は全て運び終わっており、
がらんとしていた部屋にはソファーやテーブルが置かれ、立派な生活空間ができていた。

「わぁ、すごい…。ベッドメイクまで完璧にされてる。
 カカシさん、本当にありがとうございます。」
「どーいたしまして。何か足りない物があったら遠慮しないで言ってちょーだい。」
「…はい……。」

雅美ちゃんは歯切れの悪い返事をすると、そのまま俯いてしまう。
眉をしかめて、辛そうに唇を噛む彼女の頭をそっと撫で、覗き込むようにして様子を窺う。

「…雅美ちゃん、どうかした?」

俺が問いかけると彼女は何か言いたげに少しだけ口を開いて、また閉じた。
無理に聞き出そうとせず、頭を撫でたまま彼女の言葉を待つ。
しばらく黙っていた雅美ちゃんは自嘲気味の笑みを浮かべた。

「どうして何も教えてくれないんですか…?」
「……どういう意味?」
「だって、おかしいじゃないですか。昨日突然現れたんですよ、私。
 だったら今日突然帰る可能性だって考えられますよね?」

ずっとどう伝えようか考えていた。
なるべくショックを与えないよう、時期を見て伝えるつもりだった。

「そうだね。普通に考えたらその可能性の方が高いだろうね。」
「…何か知っているんですね。」

普通に考えたら、と、
わざと含みのある言い方をする俺を雅美ちゃんは真っ直ぐ見つめてくる。
少し俺を責めるようなその目に、小さく心が痛んだ。
きっとこの子はもう気づいているのだろう。
自分の置かれた現実に。

「何もかも準備しすぎですよね、どう考えても。家の内装も、服の量も…。
 まるでカカシさんは、私がすぐには帰れないことを分かっているみたいです。」
「追々話すつもりではあったんだけどね。今は余計な心配させたくなかったんだよ。
 知っても知らなくても、現状は変わらないからね。」

五代目から聞いた話は、彼女にとって酷な話だった。

火の国の歴史を記録した巻物。
そこには、初代目火影の就任中、
彼女のような異世界からの訪問者があったと記されていた。

10代半ばの少年。
この世界には存在しない言語を使う、褐色の肌の少年。

しかし、その存在は誰にも知らされることはなかったという。
火影と側近の忍だけがその者の存在を知り、478日間という長い間、
牢獄で監禁、監視したという残酷な事実。
外に出ることは許されず、何の情報も与えず、ただ「生かす」だけ。

そして監禁された訪問者は日に日に弱っていき、479日目に忽然と姿を消した。

その記録から分かることは、彼女の様な訪問者には前例があり、
その者は元の世界に戻ることはないということ。
そしてこの世界で、恐らく長くは生きていけないということ。

そんな事実を、俺は彼女にどう伝えればいいのだろう。

黙り込んだ俺の顔を雅美ちゃんは不安げに見つめている。
今にも崩れ落ちてしまいそうな脆さを見せる彼女に、俺はなかなか言葉を発せずにいた。


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