雅美ちゃんと皆が和気藹々としている光景は、何だかとても微笑ましかった。
一歩引いた所から見守っていると、賑やかな輪の外にいたサイがすっと俺の隣に立つ。
「カカシ先生は片思いをしているんですね。」
「……サイ、お前ね…。」
悪びれもなくそう言って、にっこりと笑うサイ。
ちゃんと説明した後だというのにその発言。もう突っ込むことすら面倒だった。
「僕も挨拶したいのですが、彼女を何て呼んだら良いか決まらなくて…。」
「なにソレ、普通に名前じゃだめなの?」
「初対面の人と親しくなるにはあだ名で呼ぶと良い、と本にありましたから。」
ツカツカと彼女に近づいていくサイに、一抹の不安を覚える。
(頼むからあんまり変なこと言わないでちょーだいよ…?)
「初めまして、チビ。僕はサ――「このバカサイがぁぁーーーーっ!!!」」
サイが自己紹介を終える前に、サクラの鉄拳が火を噴いた。
「サクラちゃんっ、おち、落ち着いてー!」
周りの忍達が恐怖から手を出せずに見守っている中で、雅美ちゃんだけが鬼と化したサクラの振りかぶる拳を必死で止めている。
「サクラ、いくらサイでもお前に本気で殴られたら死んじゃうでしょーよ。」
サクラに殴り飛ばされたサイの腕を掴んで起こしてやり、サクラの頭をぽんと叩く。
「雅美ちゃん、こいつはサイ。
毒舌だけど悪気はないから許してやってちょーだい。」
「は、はい。もちろん!」
「……すみません。」
しょんぼり謝るサイに、サクラはフンっと鼻息を荒くして睨んでいる。
そんな中でコロコロと笑う彼女を見て、俺は騒がしい忍の卵達に少しだけ感謝した。
この世界でたった一人きりの彼女。
その彼女が楽しそうに笑っている、それが何故かただ単純に嬉しいと感じた。
「さて、と。ちょい時間食っちゃったけど、
雅美ちゃんの洋服を買いにいかないとね。」
「あ、はい。」
「…良かったら、私とイノで案内しましょうか?
カカシ先生じゃ女の子の服なんて分からないでしょう?」
サクラの申し出は、正直願ってもいないことだった。
女性の服なんてさっぱり分からないし、彼女も俺みたいな男よりサクラ達との方が気楽だろう。
そう考え、サクラ達の言葉に甘えさせてもらうことにした。
「助かるよ。俺は外で待ってるから決まったら呼んで。」
かしましい二人に、半ば引っ張られる様に店の中へと消えて行った雅美ちゃん。
胸の中で頑張れ、とエールを送りつつ俺は愛読書のページをめくった。
洋服屋の外で待っていると、店内からはサクラ達の楽しそうな笑い声が終始聞こえてくる。
「なーんかすっげー楽しそうだってばよ、サクラちゃん達!」
「…ナルト、お前まだ居たワケ。」
「カカシ先生ってば冷てーなぁ。」
ナルトはがっくりと大袈裟に肩を落とした後、俺をじっと見る。
「なにヨ…。」
「へへへ、カカシ先生ってば雅美のねーちゃんといる時、すっげぇ優しい顔すんのな!」
ナルトの思いがけない言葉に面食らった。
俺はそんな顔をして彼女と接していたのだろうか。
ナルトに気づかれるくらい、あからさまに……。
無意識を指摘される事程照れくさいことはない。
「いやー、カカシ先生も人の子だったんだなー!」
「…なんかむかつくね、お前。」
「いててて!痛いってばよ!」
ナルトの頭をグリグリ撫でながら、自分自身に苦笑してしまう。
コピー忍者の異名を持つ上忍が、何とも無防備ではないだろうか。
(優しい顔、ね……。)
決して褒められない事実だというのに、何故か俺は悪い気分ではなかった。
![](//static.nanos.jp/upload/a/atesamours/mtr/0/0/20110910140115.gif)
prev / next