「この方は多田雅美さん。
日の国っていう、小さな国から来た大事なお客さんで、
俺は護衛を任せられてるってワケ。
残念ながら恋人なんてゆー色っぽい関係じゃーないヨ。」
カカシさんに目配せされてはっと我に返った。
『雅美ちゃんが異世界から来たってことは極秘扱いになってるからね。
知っているのは五代目、シズネさん、イビキと俺の4人だけ。
雅美ちゃんの安全の為だから協力してネ?』
カカシさんに言われた言葉を思い出す。
(そっか、そういう設定にするってことね。私もうまく合わせないと…!)
心の中でぐっと拳を握り締め、気合を入れてずらり並んだ少年少女に向き合った。
「は、はじめまして!」
勢い良く頭を下げて挨拶をしたが、緊張して少し声が裏返ってしまう。
「に、にちのくに?どこだってばよ、そこ?」
ナルト君がぽかんと口を開けたまま尋ねてくる。
どこと言われるとどう答えて良いのか分からずに口ごもっていると、桃色の髪の女の子が、んー、と小さく唸った。
「私も聞いたことないけど…、地図に載ってない小さな国はたくさんあるから。
ってかこのバカナルトーー!!ガセネタじゃないのよー!!」
「わわわ、ごめんてばよサクラちゃん!」
突如テンションの変わった彼女に驚いたが、何だか可愛くて笑ってしまう。
ナルト君が顔を青くして謝る姿が微笑ましい。
「なんだよ、こんなめんどくせぇことに付き合ってやったのにガセネタかよ……。」
頭をワシワシと掻きブツクサと文句を零した、黒髪を一つに後頭部で結んだ少年が、
私の前にスッと立った。
「すまねぇな、あんた。騒がしくしちまってよ。
俺は奈良シカマル。
これでも木の葉の忍やってるんで、何か困ったことがあったら言ってくれ。」
聞き覚えのある名前。
このちょっと口の悪い男の子の優しさが嬉しくて、緊張がふっと緩んだ。
本当にめんどくさいが口癖なんだなぁ、と思わず笑みを零しながら、
私はシカマル君にお礼を言う。
「ありがとう、シカマル君。」
一瞬の沈黙が私の周りを包んだ後、色白で臍を出した男の子がその沈黙を破る。
「…作り笑いとは違う、とても自然な笑顔ですね。」
「ほ、ほんと。一瞬見とれちゃった!」
金髪ポニーテールの女の子がブンブンと頭を振って頷いている。
お腹が丸見えの服装で戦う時は大丈夫なんだろうか。
そんな余計な心配をしてしまった。
「私、山中イノっていいます。こっちのお菓子食べてる奴はチョウジ。
おっきな犬に乗ってるのがキバで、ゴーグルした怪しいのがシノ。
ピンクのでこっぱちがサクラ、色白の美少年がサイ君です!」
「でこっぱちは余計だ、このイノ豚ーっ!!」
(…………………。)
絶対に覚えられない。
頭の中で呪文のように繰り返し唱える。
ふふふよろしく、と笑顔で対応しながらも内心ではもう必死だった。
「あのさ、あのさ!俺ってばうずまきナルト!未来の火影になる男だってばよ!」
ずいっと一歩前に出て胸を張って得意げに言った、青い目を輝かせる金髪の少年。
話しで聞いた通り、絵で見た通りのその姿。
この世界が本当に漫画の中なのだと実感させられた気がした。
太陽みたいな笑顔を向けられて、胸がぎゅっと苦しくなる。
信じられないけれど、やはりここは紙の上の世界なんだ。
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