カカシ先生長編改造計画 | ナノ


「……あのサ、まずは先生ってゆーの止めない?」
「…はい…?」

ようやく言葉が出て来て安堵した。
ぽかんと俺を見る彼女に構わず続ける。

「俺、雅美ちゃんの先生じゃないからね。カカシでいーよ。」
「ぇええ!?む、無理ですよ!じゃ、あの、カカシさんって呼びます!」
「んー、なんか余所余所しくない?」
「だ、だいじょうぶです!」
「ハハ、だいじょーぶって、何がヨ?」

顔を赤くし、言葉を吃らせて一生懸命話す彼女の姿はとても愛らしい。
さっき見せた強い瞳は嘘のように、今はくるくると忙しなく動く黒目がちのそれ。

不思議な女の子だな。

頭の片隅でそんなことを思いながら、どこか落ち着かない自分自身がいた。




玄関を開けて廊下の突き当たりは洗面所、その手前にトイレ。
廊下の右手側には8畳の洋室、左手側の引き戸を開ければ12畳程のリビングダイニング。
ダイニングの奥には使い勝手の良さそうなキッチンがあり、
リビングを横切るように進むと6畳の洋室へと繋がっている。
2LDKのアパートは、ルームシェアに丁度良く作られていた。

「雅美ちゃんは広い方の部屋を使いな。」
「そんな、カカシさんのほうが大きいんだからカカシさんが使ってください。」
「じゃ、一緒に寝よっか?」
「……大きい部屋使わせていただきます。」
「ん、よし、イー子だネ。」

ぽん、と軽く頭を撫でて私の前を通り過ぎるカカシさん。
一瞬ドキッとしてしまった自分を、心の中で叱咤する。
決してときめいたわけではない。ただ男の人に慣れていないだけ。
特に、カカシさんのような口のうまい軽いノリの男の人は一番苦手とするタイプだった。

(由佳さんとは本当に趣味が合わないなぁ…。)

友人との好みの違いをしみじみと実感しながら、今決まった自分の部屋へと足を進めた。
部屋は何年も使われていなかったようで、床は勿論窓枠やサッシ、
カーテンレールなど至る場所が埃だらけだった。
雑巾で床や壁を拭きながら、これからの生活を考えては不安で溜息しか出てこない。
もともと男性が苦手な私にとって、最大の試練で最高の嫌がらせだ。

―――男の人と二人きりで暮らすなんて…あり得ないよぉ…。


「雅美ちゃん、終わった?」

半分開いたままだったドアからヒョコッと顔を出したカカシさん。
突然声をかけられたせいで、ビクッと大きく体が震えてしまった。
ノックくらいしてくれよ、そう思いながら動悸のする胸を抑えつつまた手を動かす。

「まだ5分もたってないのに終わりませんよ…。」

床を拭く手を休めずにカカシさんの方を見て、またビクッと体が震える。
ぞろぞろと部屋に入って来たのは、5人のカカシさんだった。

「「「「「手伝うヨ。」」」」」

驚くほど手際の良い5人のカカシさんは、埃だらけだった部屋をあっという間に綺麗にしてしまう。
背丈も大きな男の人が5人同じ部屋の中にいたせいで、私は端っこに追いやられてしまったが、改めて忍者の実力を思い知る。

「……忍者って便利ですね。」




バケツの水を洗面所で流し雑巾を濯いでいると、玄関のチャイムが鳴った。
はいはーい、とまるで主婦のような返事をしてドアを開けるカカシにさんに、
思わず小さく噴き出してしまう。

誰か来たのかな、と廊下を覗いてみると、
こちらへ歩いて来ていたカカシさんと目が合った。

「あ、誰か来たんですか?」
「ん、家具が届いたから、後は引越し屋に任せて俺たちは買い物に行こう?」
「……お買い物。」
「雅美ちゃん、パジャマ一枚で来ちゃったでショ。
 色々買わないとね。」
「あぁ。」

確かに今来ている白いパーカーと、私には裾の長過ぎるジーンズは、
病院からここへ来る際にシズネさんが用意してくれたものだった。

「でも、私お金持ってないです…。」

違う世界からパジャマ一枚でやってきたのだから当たり前なのだが、
なんだか恥ずかしくて小さい声で呟くと、カカシさんはニコッと微笑んだ。

「そんなこと心配しないでいーよ。
 雅美ちゃんの生活費は五代目にちゃーんと貰ってるから。」
「なんか、何から何まで申し訳ないです……。」
「ハハ、雅美ちゃんって、見かけは幼いのにすごくシッカリしてるよネ。」
「…………。」

ソレ嬉しくないんですけど。
喉の奥まで出てきた言葉をぐっと飲み込んだ。

「んじゃ、出掛けますか。」

少し楽しそうにそう言ったカカシさんは、
ごく自然に私の背中に手をあてて玄関へエスコートする。

(この人本当に女慣れしてる。)

普段の私ならば、こういう男性の行為には嫌悪感すら抱いてしまう筈。
しかし友人から彼の良い話を散々聞かされたせいなのか、
不思議と触れられることを嫌だとは思わなかった。

私の性格上、本当に不思議だ。いやはや珍しいこともあるものだ。
なんてどこか第三者のような視点で物を考えながら、大人しくカカシさんのエスコートを受けていた。


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