「それで、その、私はどうすれば元に戻れますか?
この胸の字を消せばいいんでしょうか??」
期待を胸にそう尋ねると、金髪火影は申し訳なさそうに頭を横に振る。
「その術式は消えなかったよ。我々も色々試したのだがな。
…はっきり言うが、今はまだお前が帰る術は全く分かっていない。」
きっぱりと放たれたその言葉に、浮いていた気分が一気に落ち込んだ。
ショックで言葉が返せなかった。
(そんな…。どうしたらいいの……。)
帰ることができないだなんて、もう日も傾いているというのに。
今日は無断欠勤になってしまったし、それ以前に向こうで私は行方知れずになっている。
もしかしたらもう警察に捜索願を出されているかもしれない。
色々な不安がぶわっと押し寄せて、頭が混乱して何も考えられない。
悪い夢なら早く覚めてほしい。
帰りたい。
帰れない。
血圧が上がり、脈拍が上がる。
全速力で走った後のように、はっはっ、と浅くなってしまう呼吸に、
苦しくて思わず目をぎゅっと瞑った。
ぐっと固くなった私の体を解す様に、
ふわりと背中に添えられたのは金髪火影の温かい手。
「雅美、もう少し時間をくれないか?
どうやらお前を此処に連れてきたのは我々の世界の者のようだからな。
必ず元に戻す方法を見つけ出してみせるよ。」
俯く私の顔を覗き込みながら優しくそう言って、
二つに結われた金髪を揺らしてニカッと笑う。
その人懐っこい笑顔は、さっきまでの絶望感を嘘のように消した。
「改めて自己紹介しよう。
私は此処、火の国・木の葉隠れの里を治めている五代目火影、綱手だ。」
多田、お前が無事にもとの世界に帰れるまで、この私が責任を持って面倒を見る!
何も心配しないで木の葉の里を楽しんでくれ!」
こんなに若い女性がどうして国を治める長なのか、
何だか心底納得がいった。
顔を上げて前を見れば、カカシ先生が柔らかい笑みを私に向けている。
怖いとばかり思っていたイビキという大男も、緩く口角を上げて私を見ている。
大丈夫。
伝わってくる気持ちに、鼻の奥がツンと痛んだ。
「あ、ありがとうございます!よろしくお願いします!」
込み上げる涙を必死に堪え、深く頭を下げた。
帰り方は分からないが、ここへ来た時のように突然元の世界に戻れるかもしれない。
綱手様が自分の存在を受け入れてくれたことで、身の安全は保障された。
帰る方法も探してくれると言ってくれたのだし、悩んでいても仕方ない。
大丈夫。
彼らは、異世界の人間である私をを受け入れてくれた。
自分も今の状況を受け入れて、前向きに考ればいいんだ。
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