火影邸で雅美を見送ってから、もう半日が経とうとしていた。
流石にもう尋問は終わっただろう。
尋問には薬を使用したのだろうか。
五代目は彼女をどう判断したのか。
今日はもうずっとそんなことばかりが頭を占領している。
ナルト達との任務も目処が付き、そろそろ解散だという時に聞こえた鳶の鳴き声。
何の用件なのか直ぐに理解した。
「サクラ、後は任せた!」
えー!?という抗議の声を背に、俺は火影邸へと走り出した。
「なんなんだってばよ?今日の先生。」
「ずっと上の空だったわよね。
いつも私達に押し付けてる任務も、今日は手伝ったりなんかして。」
怪しいってばよ、と勘繰るナルトとサクラを見て、サイがニコッと笑って口を開く。
「二人とも、くだらないことにだけは真剣ですよね。」
「っしゃーーんなろーー!!」
サクラの鉄拳がサイの左頬にヒットするのを、ナルトはオロオロと見ていた。
火影邸に急ぐ途中シズネと会い、彼女の元へと案内される。
逸る気持ちからどんどん上がる移動速度に、シズネが戸惑っているのが分かる。
しかし俺は自身を抑えることができなかった。
木の葉病院の集中治療室のベッドの上で眠る雅美。
何か薬を飲まされたのか汗をかいて少し顔色が悪いが、
彼女が無事であることに心底安堵する。
眠る彼女の傍らに立つ五代目が、指先だけでこっちへ来いと合図した。
「カカシ、この術式に見覚えがないか?」
五代目が視線と指先を落とした場所に眼をやる。
「!!?」
眼に入ったそれに、心臓が大きな音を立てて跳ねた。
「これは…、どういうことですか??」
「見覚えがあるんだな?」
彼女の胸に印された術式から眼を離さず、コクリと頷く。
見間違うはずもない。
この世でたった一人しか使えなかった術の式。
右足に着けられたクナイホルダーから、一本のクナイを取り出し五代目に渡す。
そのクナイには、静かに眠る彼女の左胸に書かれた文字と同じ四文字を綴った札が巻かれていた。
「このクナイは、俺が上忍試験に合格した時に四代目がくれたものです。
いつでも俺の元へ飛べるようにと…。」
十数年前、里を壊滅状態まで追い込んだ九尾の妖狐。
その強大なチャクラの塊を生まれ落ちたばかりの我が子の臍に封印し、
自らの命と引き換えに里を守った四代目火影。
彼は、俺の師であった。
多田雅美。
彼女が俺のベッドに現れる前に感じた、あの懐かしい気配。
あれは……――――――。
―――――――――――――――――――
左胸の書かれた漢字の様な文字。
問われ、知らないと答えれば三人は顔を合わせて黙り込んでしまった。
(みんな何で黙ってるの……?)
部屋を包む沈黙に、ピリピリと体を刺すような緊張が高まっていく。
次に何を言われるのか、一体何を考えているのか全く想像できなくて、
口を開くことができない。
はぁ、と金髪火影が深く息を吐き、反射的に体がびくっと震えた。
「雅美。」
「は、はい。」
「尋問の結果、お前自身は嘘をついていないことが分かった。
しかし記憶は封印術で第三者が操ることもできる。
お前が操られた他国のスパイである可能性も考えられた。」
自分はスパイなどではないと弁解しようにも、立証できるものなど何もなかった。
ギュッと目を閉じ、死刑宣告を受ける囚人のような気持ちで金髪火影の言葉を聞く。
「しかし、すぐにそれは無いと分かったよ。
尋問後に身体検査を行ったのだが、
お前が異世界から来たとしか考えられない事実が見つかったよ。
雅美、お前にはチャクラが無い。そんなことはこの世界であり得ない事だ。
お前の身体は、我々とは異なるエネルギーで動いている。」
「ちゃ、ちゃくら……?」
私には彼女の言っている言葉の意味が理解できなかったが、
どうやら自分が違う世界の人間であることは信じてもらえたようだ。
「その胸に印されているのはこの世界の物。
まだはっきりとは言えないが、
雅美がここへ飛ばされたのは恐らくその術式が原因だろう。」
「え…?」
私が寝ている間に恐らくではあっても原因まで解明できたという金髪火影。
さっきまでの不安で真っ暗だった気持ちに、ぱっと光が射した気がした。
prev /
next