カカシ先生長編改造計画 | ナノ


「ふう……」
トン、と報告書の束を揃えて息を吐く。
結局忙しくしているうちに、定時時間を迎えてしまった。
待機所を出ると、外はもう夜と言える程暗い。
少し前ならこの時間はまだ夕暮れが見えたのに、と季節の移り変わりを実感した。

イルカさんに話を聞いてもらったおかげで、苦しい程の胸のモヤモヤ感はない。
けれどカカシさんとどう仲直りしたらいいのか、それはまだ分からないままだった。

(お互いが嫉妬し合ってたってこと、なのよね)

彼と私の気持ちは、同じ場所にあるのだろうか。
例えばカカシさんに自分の気持ちを打ち明けたとしたら、どんな結果が待っているのだろう。
もし万が一上手くいったとして、あの少し低く響くような甘い声で愛を囁かれたとしたら――…。
かっ、と急激に上がった体温。
想像したら恥ずかしくて堪らなくなって、その場にしゃがみこみたくなった。

「雅美さん、でしたよね?」

後ろから呼び止められ体が跳ねる。
振り返って、ドクンと心臓が大きく脈打った。
露出の高い忍装束を纏った綺麗な女性。
忘れるはずもない。彼女は昨晩、カカシさんと一緒に飲み屋を後にしたくの一だった。


カカシさんのファンである忍が、私に直接声をかけてきたのは初めての事。
遠くからいくら嫌味や悪口を言われようが無視できる。
けれど直に話しかけられてはどうしようもない。
一体何を言われるのか――持っている鞄をギュッと握りしめて構えた。
あからさまに眉を寄せる私の様子を気にもせず、女性はにっこりと可愛らしく笑った。

「この間は失礼な態度とってしまってすみませんでした。私、真木野小糸っていいます」
「え、あ……、多田雅美です……」
「ふふ、知ってますよ。上忍待機所の受付されてますよね?」

昨日飲み屋で会った印象と、あまりにかけ離れていて面喰う。
小糸と名乗る彼女の瞳は、息を飲む程綺麗な金色で……その目でじっと見つめられると酷く落ち着かない気持ちになった。
だって、穏やかな物言いのわりに目が笑っていないから。

「ねぇ、ひとつお聞きしたいんですけど。あなたとカカシっていつからお付き合いしてるんですか?」
「お、お付き合いっ?」
「だって一緒に暮らしてるんでしょう? カカシに新しい恋人ができたって、私達の間じゃ噂になってるんですよ」

綺麗な笑顔を浮かべたまま、そんな質問をしてきた真木野小糸さん。
思わず咽てしまう程には驚いた。
カカシさんと自分は、周りからは恋人同士だと思われていたのだろうか。
共に働いている忍達には綱手様から話がされているはずだが、彼女は上忍ではないから知らないのか。
とにかくそんな噂が流れていては彼に迷惑がかかってしまうから、私は力いっぱい首を横に振った。

「私とカカシさんは恋人同士なんかじゃありません……!カカシさんには、その……訳があって私の護衛をしていただいてるんです」
「……へぇ」

私の言葉を聞いた彼女が、すう、と目を細める。
向けられた笑みは先程までのものとは全然違う、どこか見下すような冷たい微笑。

「じゃあ、あなたはカカシに抱かれてないんだ……」

なんて嫌な展開だろう。
【あなたは】なんて含みのある言い方をわざわざして、自分は彼に抱かれたのだと私に分からせるように。
だから何? 何が言いたいの? あなたに関係ないでしょ?
頭の中には言ってやりたい台詞がたくさん浮かぶのに、喉がひりひりと乾いてひとつも言葉にならない。
何も言い返せない自分自身が悔しくて、黙って俯く。
コツ、と響く足音が近づいて、甘ったるい香水の香りが鼻を擽った。

「あんまりカカシのこと、困らせないでくださいね? 彼が欲求不満になるとこっちが大変なんですから」

ゆっくりと遠ざかる気配。
彼女が去って暫く経っても、体は動いてくれなかった。
あの真木野小糸という忍は、私の存在が気に入らないからあんな言い方をしたのだろう。
彼女の言葉を鵜呑みにしてしまうほど子供ではない。

頭では分かっている。
分かっているのに……。

体の内側から、ジリジリと焼かれるような感覚。
吐き気がする程の嫉妬で、心がどうにかなってしまいそうだった。


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