カカシ先生長編改造計画 | ナノ


「雅美さん。具合でも悪いんですか?」
「え……?」

イルカさんの言葉に顔を上げる。
心配だ、と顔に書いてあるような表情で私を窺うイルカさんに、何だか胸の奥が温かくなるような気がした。

「今日は随分元気がないものですから、体調でも悪いのかと思いまして……」
「ごめんなさい、ちょっと寝不足で……集中しますね」
「いや、別にそういう意味で言ったわけじゃ無いんですけど……。そうだ、少し休憩にしませんか? 確か美味しいお饅頭があったはずですから」

パンっと手を叩いて立ち上がったイルカさん。
お茶お茶、と楽しげに給湯室へ向かう彼の背中に思わず笑ってしまった。
なんというか、イルカさんのように毒気が無い人も珍しい。
それでも立派な忍者なのだから、この世界を知らない私にとってはとても不思議な感覚だった。

受付を空けるわけにはいかないので、待機所のソファへ二人で座る。
有名な和菓子屋さんからの差し入れだというお饅頭は、餡子の甘さも丁度良くて本当に美味しかった。
少し濃いめにいれたお茶を飲んでほうっと息を吐けば、僅かに心が安らぐ。

「何かあったんですか? カカシさんと」
「……カカシさんのことだって、どうして分かるんですか?」
「はは、今のは誘導尋問ってやつですよ。雅美さん素直すぎますね」
「…………」

やっぱりこの人は忍だ。
と、思ったけれど……これはイルカさんが忍だから鋭いということでは無く、ただ単に私が単純なだけだろう。
悩みが駄々漏れなことが我ながら情けない。
しかし、イルカさんが気付いてくれたことにどこかほっとする自分がいた。
頭の中を整理するには、他人に話を聞いてもらうのが一番いい。
たぶん適当に距離のあるイルカさんは、悩み事を聞いてもらうのに適任な気がした。

「……実は昨日、カカシさんと喧嘩しちゃったんです」
「原因は?」
「原因は、…原因、は……」
「……?」
「……原因は一体何だったんでしょうか」
「え、ええ?」

俺に聞かれましても、とイルカさんが苦笑する。
いざ昨日私達が衝突してしまった理由を話そうとしてみたら、なんだかうまく説明できない。
だって良く考えたら、別にお互い相手に対して悪いことをしたわけじゃないのだから。

「あの……、できるだけ掻い摘んで話すので、昨日の出来事を始めから聞いてもらえますか?」

佇まいを直してそう問うと、イルカさんは「もちろん」と笑ってくれた。



数分後。
話を終えた私は、恥ずかしくていたたまれなくて、この場から逃げ出したい思いでいっぱいだった。

他人に話してみたら何てことはない、ただのヤキモチのぶつけ合いだったのだから。
きっと売り言葉に買い言葉で、お互い後に引けなくなった結果なのだろう。
要するに、カカシさんは私とゲンマの間に何があったのか知りたかった。
私はカカシさんとあの女性の間に何があったのか知りたかった。
それが上手くいかなかったからもめた……と、そういうことなのだ。

「なんか惚気られちゃったかな?」
「ごっ…ごめんなさい! いや、でもそんなつもりは無くて……!」
「ははは、分かってますよ」

お茶のおかわり入れますね、と席を立ったイルカさん。
穴があったら入りたい、とはこういうことを言うに違いない。
ちょっともうどういう顔をしたらいいか分からなくて、両手で顔を覆った。

「……カカシ先生が雅美さんをただの護衛対象としてしか見ていないって、本当にそう思いますか?」

給湯室のドアを開ける寸前、イルカさんは私に背を向けたままそう尋ねる。
昨夜のカカシさんの台詞が頭に浮かんで、チクリと胸が痛んだ。
けれど――…

「……いいえ」

それは半分確信で、もう半分は願い。
私の答えに対して、「俺もそう思いますよ」と優しく笑ってくれたイルカさん。
きっとカカシさんも、今頃昨夜のことを考えてくれているかもしれない。
言い過ぎたって後悔してくれているかもしれない。
そう考えると、胸の痛みがふわりと和らいでいく気がした。

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