国や忍に対する知識。言葉、衣食住、風土について。
あらゆることに雅美は無知だった。
どんなに小さな村だって、あの忍大戦を全く知らないまま育つことなんて考えにくい。
しかしあいつは、まるで記憶をどこかへ置いてきたのかと疑う程に何も知らなかった。
恐らく周りの目を気にしたのだろう、徐々にこの国や忍について学んだようで、最近は会話に違和感を覚えることも少なくなったけれど。
それでも時折うまく話を合わせるような態度を取る雅美を、ずっと不思議に思っていた。
それはほんの思いつき。
周りに牽制するばかりで雅美との関係をはっきりさせないカカシさんへの、ちょっとした嫌がらせ。
軽い気持ちで口付けたあいつの肌からは、全ての生物の生命力であるチャクラが感じ取れなかった。
人間はもちろんのこと動植物も、生命が在るものならば必ず持つチャクラ。
持つ者によってその量に多い少ないはあるものの、皆無なんてことは有り得ない。
けれど雅美はその常識に当てはまらない存在だった。
気付いてしまったからには知らないふりなどできない。
否、知らないふりはしたくない。俺は雅美を理解したいから。
あいつがこの里に来た理由も、カカシさんが執着している訳も、俺が抱いた違和感も、彼に問えばひとつに繋がるのだと確信していた。
『雅美にはチャクラが無かった。そんな人間って存在するんですか?』
問いかけに答えること無く慰霊碑をただ見つめるカカシさん。
その沈黙は俺の考えを肯定する。
「……言えないことなら無理には問いませんが、今のままじゃ他の奴らに知られるのも時間の問題ですよ。あなたなら分かってるでしょうけど」
「いや、話すよ。私情を抜けばお前は申し分ないくらい優秀な忍だからね」
ただ聞いてしまったなら彼女を守ってやって。
そう小さく呟いて、カカシさんはようやく慰霊碑から俺へ視線をよこした。
カカシさんが話す雅美の経緯は、とてもじゃないけれど信じられないようなもので。
けれど妙に納得がいくような、だからこそあいつに惹かれたのだと初めて理解できるような、そんな不思議な感覚に陥った。
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