カチッという千本の固い金属音が夜露で湿った芝生に落ちる。
こんなタイミングでこんな時間にこんな場所へ、俺に何の用があるのか――。
どう前向きに見積もったところで嫌な予感しかしなかった。
ピンと張りつめた沈黙を先に破ったのはゲンマの方。
「相変わらずここにいるんですね。まぁ、こっちとしては探す手間が省けて助かりますけど」
「……」
「今晩から明日早朝にかけて雨が降るらしいですよ、あんま長居しない方がいいんじゃないですか?」
「なに? 俺の体調心配して来てくれたってわけ?」
俺の言葉に「まさか」と軽く笑って、ゲンマは浅く息を吐いた。
「カカシさん、一体雅美は何者なんですか?」
「……どういう意味?」
「ちょっと腹立ったんであいつにキスマークでもつけてやろうとしたんです、あなたに当てつけてやりたくて。でも首に口付けた瞬間驚いて飛びのいちまいましたよ」
ざわざわと這い上がっていくような緊張感に対し、頭は酷く冷静で。
たぶん、いつか誰かが気付いてしまうだろうという恐れは、ずっと心の奥にあったから。
「カカシさん」
杞憂であれと願う心配ごとばかりが現実のものとなるのはなぜなのだろう。
「雅美にはチャクラが無かった。そんな人間って存在するんですか?」
遠くない未来にこうなるだろうことを分かっていた。
忍達の近くで生活していることを考えれば、今まで誰にも悟られなかったことの方が不思議なくらいなのだから。
けれど、できることならばこのまま誰にも知られずに。
叶うならば、いつまでも静かに穏やかに。
彼女に対する想いは決して綺麗なものばかりじゃないけれど、たぶん本当に望むことはただそれだけだったんだ。
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