カカシ先生長編改造計画 | ナノ


店を出た途端に涼やかな風が頬に当たる。
アルコールで火照った体からゆっくりと温度が奪われて、けれど頭の中はちっとも冷静になどなってくれない。

(カカシさんのばか)

一緒に飲んでいた美人くの一を送って、カカシさんは私に一言の挨拶も無く行ってしまった。
彼女と腕を組んで(と言っても一方的に彼女がしがみついていたのだけれど)店を出て行く時、
一瞬私を見たカカシさんは申し訳なさそうに眉を顰めていた。
理由は分からないけれど、そんな彼の姿がまた私を苛つかせたのだ。

(カカシさんのばか、カカシさんのばか)

苛立つままに頭の中でカカシさんを悪く言った後、襲ってくるのは寂しさと後悔。
だってカカシさんは何も悪いことなんてしてなくて、紅さんの言った通りあの場を収めてくれただけで。
だけどどうしたって寂しいと思ってしまうのは仕方なくて……。
ぎゅっと絞られるように苦しくなる胸を押さえた時、隣でふっと笑う気配がした。

「そんなあからさまにガッカリした顔すんなよ。悪かったな、隣にいるのがカカシさんじゃなくて」

ゲンマの言葉ではっと我に返る。
送ってもらっているというのに、私は終始無言のままだったのだと今やっと気付いた。

「な、そ、そんなことっ……それより送ってもらっちゃってごめんね、ゲンマ」
「俺が送りたかっただけだから気にすんな」
「ふふ、ありがとう。はぁ……今日は久しぶりにたくさん飲んじゃったなー、すごく楽しかった」
「……そっか」

吐息みたいに小さく答えたゲンマの声があまりにも優しくて、思わず隣を見上げる。
いつもの自信たっぷりな笑みとは全然違う、私を見下ろす柔らかな微笑みに大きな音を立てた心臓。
色素の薄い眼が私を捕らえると、ゆっくりと歩いていた2人の足が自然に止まった。

10月も半ば過ぎ、木の葉の夜を包むひんやりとした冷気。
イルミネーションも無いこの国の夜は暗く、澄んだ空には星座なんて確認できない程に瞬く多くの星。
月の明かりを背負ってゲンマの輪郭が淡く光り、サラリと風に揺れる髪の先端は透けて輝く。
まるで金縛りにでもあったかのように、ゲンマから目が離せなかった。

声が出ない。足が震える。
どうしてこんなに緊張しているのか自分でも分からない。
いつもと違う雰囲気の彼を前に、恐怖にも似た感情を覚えた。

「……誰にでも言ってるわけじゃねぇよ。俺は、おまえだから口説いてる」
「っ……」

少しだけ伏せた目と、揺れる千本。
今までずっとゲンマの言葉を冗談みたいにしてきたけれど、目の前にいるゲンマはただただ真剣で……とても適当にあしらうことなどできなくて。

ゲンマの指先が、アルコールで火照る私の頬をそっと撫でる。
その手の動きに思わずビクッと身体を震わせると、ゲンマはくくっと喉の奥で笑った。

「そんな怯えんなって。お前の気持ちがこっちに向いてないのくらい分かってるからよ。ただ、俺の気持ちだけは覚えといてくれよな」
「ゲンマ…、私――……」

言葉の先を遮るように彼が私の髪の毛をくいっと引けば、固まっていた体が引かれるまま前のめりに揺れる。
え、と思う暇も無く咥えた千本を取ったゲンマの顔が近づいて、首筋に感じたのは濡れた吐息。
キスをされたと自覚したのは、ちゅ、という音を立てて彼が離れた時だった。

「――ひ、ゃっ!」
「…………ッ、お…まえ……」

飛び上がるくらい驚いたのは私なのに、なぜかゲンマの方が見開いた目をしているから文句の言葉を反射的に飲み込んでしまう。
僅かな沈黙の後、彼がいつも通りの不敵な瞳で笑った。

「ははは、おまえ本当に男に免疫ねぇんだな」

きっと暗い夜道でも顔が赤いことが分かってしまうだろう私を余所に、ゲンマはケラケラと楽しげに笑って。
私はその憎たらしい後ろ姿を睨みつける。
不意に振り向いたゲンマが、少しだけ眉尻を下げて微笑んだ。

「……なぁ、今は答え出すなよ。まだ分かんねぇだろ? カカシさんばっかじゃなくてさ、俺のこともちゃんと見てろよ、な?」

なぜか自信満々な表情でくい、と咥えた千本を揺らしたゲンマ。
いつもと同じ彼の雰囲気に安堵して、過ったのは先ほど向けられた真剣な瞳。
細かく波立った感情に思わず俯く。

ゲンマの数歩後ろを着いて歩きながら見上げた初秋の夜空。
もう何が原因で熱くなっているのか分からない頬を撫でる風が、今はただ心地良かった。


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