Boy




俺には父親がいなかった。物心ついたときには既に母親一人で俺を育てていてくれた。
俺は母さんが大好きだ。仕事が大変なのにいつも俺のことを気にかけてくれる。
俺が生まれてから一年間、仕事を休んで俺を育てることに専念した。父親の保険金とか遺産とかかなりあったから一年間はそれほど厳しくはなかった。だけど母さんはそれだけに甘えないように自宅でできる仕事を探してパッチワークというものを見つけそれで働いて生計を立てていたらしい。
4歳になるとさすがの俺もうろちょろする年頃になって母さんも手を焼いたようだ。そこでしばらくの間は保育所に行くことになった。そして母さんは仕事を俺が生まれる前にデパートで働いていたのでそっちに戻したらしい。理由は給料がいいから。保育所で同じ年の子供と遊ぶのは楽しいがやっぱり母さんと一緒がいい・・・みんなが帰ってからいつも思う。
でもやっぱり母さんは優しくて働く時間もできるだけ夜遅くにならないように選んでくれて早く俺を迎えにきてくれる。それでも6時は過ぎてしまうが俺のために一生懸命な母さんが大好きだ。いつも母さんから愛されてるとすごく感じた。
日曜に仕事の休みをもらえることが滅多になく、平日にお休みをもらえてその日はめいいっぱい俺と遊んでくれる。でもお休みって自分の体を休めるためにあるから俺と遊んだらまた疲れるんじゃないかって訊いた。母さんは俺と一緒にいると癒されて疲れがなくなっちゃうって言った。俺が母さんの助けになってるのが嬉しいけどやっぱり無理はしないで欲しいなって思った。

小学校に入る前、休みをいっぱいもらった母さんは俺に旅行に行こうと誘った。生まれて初めての旅行で俺は明るく行きたいと答えた。母さんとのお出かけ一つではしゃぐ俺は無邪気な子供だと思う。
旅行先は無難に温泉だった。まだ小さい子供だから女湯だった。やっぱり恥ずかしかった。顔をいろんな意味で赤くしてうつむいているとそれを知ってか知らずか母さんは俺の頭を泡まみれにしてわしゃわしゃとかきむしる。最初はギャーギャー騒いでたけど母さんが嬉しそうにしていたから俺も嬉しくなった。
お土産とか買ってすごく満足したけどやっぱり母さんを心配した。家から温泉宿まで長時間の運転、重い荷物を運ぶ、宿泊先から交通ルートまで独自で調べる、全部全部母親任せ・・・6歳の子供じゃたしかに何もできないけれど将来は全部俺ができるようになってやる。








小学生になってからいろいろ知識を身に付けたり判断力なども高まってきたので一人でお留守番もできるようになった。大抵は学校にいて友達と遊んだり勉強したりした。でも夕方は嫌でも家に帰らなきゃいけないからやっぱり寂しかった。母さんは仕事が終わって帰ってきたらまっさきに俺にハグしてくれる。そうしてくれるとさっきの寂しさが嘘みたいに感じて俺は幸せだった。

体育のサッカーで足をすりむいてしまったことがあった。皮が結構向けてヒリヒリしたが保険の先生の処置でなんとか痛みが少し引いた。このことを帰宅した母さんに話したら「本当に大丈夫!?」とものすごく心配された。母さんは意外と俺に対して心配症だ。でも泣かなかった、って言ったら頑張ったねと褒めてくれた。やっぱり俺は嬉しかった。

図工の時間に母親の絵を描くことになった。大好きな母さんを描かなくちゃと張り切って頑張って描いた。完成した絵に満足した。特に頑張ったのは母さんの自慢の赤い髪の色だ。絵の具でそれを出すのはなかなか大変だったがこだわった甲斐はあったと思った。それを見た先生や友達はすごいと誉めてくれた。優越感にひたれて嬉しかった。そこで先生はイラストコンクールに応募しないかともちかけた。自信はあったし入賞したら母さんは喜んでくれるだろう、そう思ったから了承した。ちなみに母さんには絵を描いたことすら内緒だ。入賞したらすっごく驚くだろうなぁ。
すると入賞どころか金賞をとってしまった。先生たちから褒められて表彰までされた。俺の絵は近々美術館に展示されるらしい。その報告とこの賞状を見せればきっと喜んでくれると思って早足で家に帰った。すぐに母さんに報告すると一瞬固まったかと思ったら慌ててバックを持ってどこかへ行ってしまった。誉められるかと思っていた俺は予想外の行動に放心し、そして悲しんだ。笑ってくれると信じていたのに・・・俺は一時的に忘れるためにふて寝をした。
目を覚ましたらもうすっかり外は暗くなっていた。いい匂いがしているから夕食ができているのだろうと渋々リビングへ。するとテーブルには俺の好物が並んでいて、特に一番大好きな熱々のグラタンが用意されていた。俺が到着したことに気づいた母さんは抱きついて「おめでとう」って笑ってくれた。なんでもびっくりしすぎて声がでなくて慌てて祝の準備、買出しに出かけたらしい。好物を作って俺をこれでもかと褒めてくれた。サプライズは大成功だった。でも隠し事しないでと軽く怒られた。


誕生日には仕事を休んで俺のためにすごい料理とケーキを作ってくれた。普通ケーキは買うものだと思うけど母さんのケーキは特別に美味しい。別に母さんをヒイキしているわけじゃない、本当にそう思うからだ。白クマのぬいぐるみがプレゼントだった。

「ハッピーバースディロー、生まれてくれてありがとう。」

そうして俺を祝ってくれる。気づいた時から誕生日には必ず言うセリフ。代わり映えはしないけどここにいてよかったと安心感を覚えていた。
父親がいなくても寂しくはなかった。











でも12歳の誕生日の夜、腹いっぱいでなかなか眠りにつけなかった俺は水を飲むために洗面台に向かった。その途中でリビングの明かりがついていたのに気づき、母さんがまだ起きて何をしてるのだろうとこっそり扉を少し開けた。
母さんはソファに座って何かを見ていた。はっきりとは見えなかったが形状や色から見て多分写真立てなのかと思った。耳を澄ますと母さんの独り言が聞こえた。

「早いな・・・もうあの子が生まれてから12年経ったんだぁ・・・なぁトラファルガー、私、あの子の成長が楽しみ。どんな大人になるのかなって。きっとトラファルガーみたいにカッコイイ大人になると思う・・・フフッ、親ばかだったかな?」

どうやら死んだ父さんに自分の心境を報告していたらしい。そして俺の成長過程も・・・・・・
改めて思った。やっぱり母さんは寂しいんだって。俺がいてくれるだけで幸せだとか、それだけで十分心が満ちるとか、俺を不安にさせなように強く振舞っているけどやっぱり寂しいんだ。そうだ、大好きだった人がいなくなってしまったら悲しいのは当たり前だ。俺だって母さんがいなくなったらどうなってしまうだろう?悲しくて悲しくて仕方ないと思う。何年何十年経ってもこの気持ちは変わらないだろう。母さんは強いと思ってたけど脆い部分も存在していた。その気持ちを知った俺はもやもやした。

ベッドに戻り、俺は決意をする。




(母さんに頼られるぐらい強くなる)




課題とかサークルとか一段落した!
第三段は息子視点でお送りしました^^


110713