あなたのための定休日の続編(描写あり)




誰かのための定休日




俺は人付き合いというのが苦手だ。
6歳のころ、両親の仕事の都合上住みなれた国を離れて外国での生活が始まった。当然言語が違うから俺は周囲になじめるように必死に語学を勉強した。言葉は生物の中で唯一人間がコミュニケーションをとる手段の一つだ。だから周りを理解するには嫌でもその国の言語を理解しないとならないから死に物狂いの勉強だった。このころから勉強をする癖は身についていた。
それから十年以上真面目に学校に通って優秀な成績を修めてから気づいた。
俺の楽しみとは一体何だろう?何が面白くて今を生きているのかわからなくなった気がする。
気まぐれに行ってみた酒場で色目を使う女が俺に近寄りためしにセックスをしてみた。

程よく絡みつく肉壁は気持ちよかった………気がする。
女は俺が腰を動かすことによってよがってねだる。傲慢でなんて滑稽だろう。少なくともそうは絶対思っていた。喘ぐ声も何故か俺を苛立たせるものに聞こえる。普通の男はこれで興奮するのだろうか。
射精をした時に(もちろんゴム付きで)快感を抱いたかとかといえばおそらく髪の毛の先ほど。絶頂した女はうっとりした顔をしていたがそれを気持ち悪いと思ってしまう俺はきっと普通から外れているのだろう。
他にも色々な女を抱いてみた。声色と髪、骨格や肌、それぐらいしか違いはなく決まって喘いでよがる。ためしがだんだん性欲処理の為だけになった。穴さえ利用できればだれでもよかった。
だから今度は男にも手を出し始めた。穴があるなら何でもよかったから。
ぶっちゃけた話、女より男の方が喘がないし妊娠とか変な心配しなくて済むから気軽にできる。俺の雄を包み込む肉壁が欲しかっただけだ。そもそも女に対する興味が乏しいのが原因。
でもどうやってもセックスで誰かを愛することができなかった。性欲処理はできてもなんと言うか、快楽とか悦びを感じることはなかった。
自分がいかに人間に興味がないかを知らされて自分に失望を覚えた。さすがに鬱にはならなかったが。

数年後、色々なことがあって俺はパティシエになった。
理由は省略するが単純な話、俺の数少ない知り合いが気まぐれに作った菓子をうまそうに食って喜んでいたから。だからこの道を極めるのも悪くないかと思った。
ある職人の修業の下で俺は必死に菓子作りの技術を磨きあげた。前述でも言ったが勉学に対する努力とかは慣れているもので、怒鳴られるのももう平気な部類だ。むしろ知らないことをもっと吸収したいと言う表れなのかもしれない。
とはいえ、俺は今いる国ではあまり働きたくない。理由はいろいろあるが今は置いておこう。ぶっちゃけた話、集団で仕事するのが苦手ってこともあるのだが。
だから俺は元いた国に戻ることを決意した。
金は学生時代にバイト(怪しいのも含めた)と親からの必要以上の小遣いを使って小さな物件を購入した。都会から離れていてかなり人目につきにくいから尚更安かった。
色々準備をして開店したのは俺の誕生日。別に合わせるつもりはなかったがなんとなくその日になってしまった。宣伝はたったひとりに対してのみ。外国に住んでいたころに知り合って自分で言うのも変だが珍しく俺と意気投合できた人物、ペンギンと言う男だった。宣伝といっても「ケーキ屋開いたから気が向いたら買ってくれ。」しか言っていない。広まるとは思ってない。ただちょっとは誰かに買ってほしかっただけだ。どうせペンギンは来ないだろう。明日からしばらく仕事で缶詰になるらしいから。
案の定、開店当日はだれも来るはずがない・・・かのように見えた。
金髪で長髪、なぜか仮面をつけたおかしな男がやってきた。来るとは思っていなかったからショートケーキとチョコレートケーキとチーズケーキしか用意していなかった。だがその男は各種類のケーキを1つずつ購入した。
不思議でしょうがなかった俺はつい質問した。なぜこの店を知っていたのかと。
「友人に聞いた。変わった店主がうまいケーキを販売していると。」
そう言ってその男は帰っていた。そんでもって後でペンギンに罵声とお礼の言葉をそれぞれ言おうと決意した。
次の日になって驚いた。昼になるとなんと客が来ているではないか。しかも女性客ばっかり。昨日と同じく今日も3種類のみ。でも客はそれとなく買って帰って行った。
更に次の日、客は増えた。相変わらず女性客ばかりだが今回はモンブランと俺の趣味でドボシュ・トルテを増やしておいた。結果、残ったケーキはほんのわずか。
こんな日が続いた。どうやら金髪の男がこの店の噂を広めたらしい。あの男はフードライターか何かなのだろうか?しかし確かめるためにフード雑誌を買う気にはならなかった。そのおかげで儲けた金でオーブンを一台増やすことができた。

しばらく忙しい生活が1ヶ月経過したぐらいだろうか、夜遅くに客が来た。珍しいことに男が一人だ。あの金髪以来だな。だれもいないこの店で男が一人というのは。
赤い髪はとても映え身長も高い、どうやら社会人のように見える。
しかし本当に珍しい。こんな郊外だから男性客なんて来ることがない。来たとしても恋人や家族と一緒にということはあったがこんな遅い時間に一人というのは本当に珍しい。
もしかすると仕事帰りで恋人か家族にプレゼントするために来たのかもしれない。見た目は俺と同じ年齢みたいだしな。
一瞬目があったと思ったらすぐにそらされてしまった。少しショックだ。とはいえ、ケーキ店なのに男性店員一人、おまけに俺の趣味でいれた入れ墨を見れば動揺するのは当然か。
なかなか客の男が反応しないので「決まりましたか。」と未だになれない敬語で言葉をかけて見る。何故か男は慌ててショートケーキを注文した。一個だけ。
ちょっと意外だった。一個ということは自分用、つまりは恋人や家族の為ではないのだろう。不思議には思ったがそれ以上の詮索はやめた。いつも通りにケーキを箱に詰めて会計を済ました客は早足で店からでていってしまった。
俺は微かにまた来てくれないだろうかなんて考えてしまった。
次の日、土曜日ということもあって客がかなりたかっていた。一番店が混む時間に俺一人で対応に色々と追われていた。バイトでもそろそろ真剣に考えようか?いやいや、金計算が面倒だ。
ふとドア窓から外に昨日の赤い髪の客が見えた。また買いに来てくれたのだろうか?俺の心が少なくとも嬉しさを感じたのは事実。あいつを昨日もう少し観察すればよかったと後から後悔したからな、ゆっくり見ることはできなくても少しくらいなら・・・
そう思っていた矢先その男は姿を消してしまった。
店内が女性客に埋め尽くされているのだ。入りづらくて当たり前か・・・このときは少しだけ俺のテンションが低くなってこの店の人気に少しだけ苛立ちを感じたりした。苛立ちの原因は理解できていないが。

更に次の日、男は夜に現れた。そんなに俺のケーキが気に入ったのかそれとも・・・
とりあえず俺は声をかけた。
「いらっしゃい、一昨日の夜のお客さん。」
その瞬間男は驚いた表情を見せた。なぜ覚えていたと俺に問いかけた。なぜってそりゃあその髪が目立っていたしと答えた。
驚く顔があまりにも面白くて更に俺は昨日も来ていたのを覚えているぞと答えた。それにも更に驚いていて面白かった。
男は今回チョコレートケーキを注文した。でもそれだけでは寂しいだろうから俺はおまけにシフォンケーキも入れた。それに戸惑いを見せるこの男の反応に俺はさらに面白いと思ったり、おまけとして受け取ってほしいと言葉を添えて渡した。
「他の店員はいないのか?昼間もそうだが今もだれもいねぇし………」
突然質問された。俺はちょっと返答に困ったが一人でやった方が気楽だからと答えた。ケーキ処分には困っているけど、と付け加えて。
男は顔を赤くして店から出ようとした。だから出る前に笑って声をかけた。
「また来いよ、赤い人。」
一瞬足を止めたかと思ったらすぐに出て行ってしまった。
やはりあの男は面白い。人間に対して感情を見せずに生きていた俺の興味をひく存在。本当に面白い。
できれば友人になりたい。頼むから今まで抱いてきた男たちとは違うようにと俺は切に願った。








それから毎日あいつは俺の店にやってくる。理由はただケーキを買う為だけじゃないのだろうが聞かなかった。自分から明かしてくれるまで俺はひたすら待つことにした。
俺はこの常連客を観察し続けたい。だから相手が何かを明かしたり質問したらその仕草なんかを観察して記憶にとどめておこう、そう決めた。
こいつと知り合ってから十日ぐらい経過。さすがにじれったく思って一つ質問をしてみた。
「名前、そろそろ教えてくれないか?常連客のことぐらい知りたいからな。」
そう言うと戸惑った表情で俺に返す。
「他の常連客にも………そんなこと聞いているのか……」
なにやら不安そうに尋ねてきたのを可愛いと思ったのは俺の勘違いか何か。
しかしまぁなんだ、俺という人間は自分から自己紹介なんてあんまりしないと今人生遅くに気付いたわけだ。学校に通っていたころ鬱陶しい女とかは自分たちで俺の周辺を嗅ぎつけていたわけだし。相手の名前を聞くなんて人生初・・・は大げさだがまぁあんまり好んですることじゃないだろうな。
そんな詳しいことまで伝えなかったがちょっと考え戸惑って興味のない人間なんかには教えないと伝えると男は「ユースタス・キッド」と教えてくれた。俺も自分の名前を明かした。ユースタス屋、と確かめてから。
名前の後に『屋』をつけるのはなんとなく。気に入る相手にしかつけない俺の癖みたいなもんだ。俺がガキの頃にたまたま知り合ったうまそうに俺のクッキーを食べていた麦わら帽子のやつみたいな面白い奴にだけつける。
俺はユースタス屋に明日また来るかと確認した。一応来るつもりだと返したので俺は夕食に誘ってみた。すぐに承諾した。
・・・・・・なんですぐに承諾するんだ?普通は悩んだりするものだろ?
確かにお前に好意は持っている、が俺はあくまで友人感覚でお前に夕食を誘った。俺は親友という存在が欲しくてお前に声をかけたりしたのにお前はそうは思ってくれなかったのか?なんでお前は俺に近づいてくるんだ?こいつは・・・
だんだん俺の中で苛立ったり悲しかったり、そればかりが繰り返される。あぁ、これが『切ない』なのかもしれない。

次の日の夜、いつも通りに男はやってきた。どうせいつもこの時間は客なんて来るはずがないと思ったので一時間早く店を閉めた。
発注の手違いで俺の家にはただいまミルクの山が大量にある。捨てるのももったいないしケーキや料理に使用しているのだがなかなか消費できなくてかなり困っていた。だからこいつにたくさん食ってもらおうと思ったので夕食に誘った。利用しているという罪悪感は少しはあった。だから素直に謝ると、ただ飯食わせてもらっているこっちが申し訳ないと返された。
食べながら俺の生活について質問された。
俺の生活の話だ。こんな町中から離れていてバイトも雇わない自宅兼仕事場を負っている俺が珍しいし気になるんだろうな。とりあえず話してみた。
集団行動、特に人と深くかかわることを好まなかったこと、海外生活で最初はなかなか馴染めずにいたこと、談笑なんてすることもなかったことなどだった。話していくうちに思うわけだがこんな変わり者の俺と話してくれるこいつも実は変わり者なんじゃないだろうか?
それからもうすぐ始まるクリスマスシーズンの話題になった。しかし肝心な俺はノープラン、ホールケーキの予約ぐらい受け付けようかなって考えているだけだった。するとユースタス屋はこんなに周りが暗いのであれば電飾で綺麗に店をアピールすればいいのではないか?と提案した。なるほどそれはいいかもしれない、しかし伝手も知識も何もない俺には到底無理だと諦めた。しかしユースタス屋はどうやらそういった仕事の関係者らしくその話に強いようだ。お言葉に甘えて頼ってみようと思う。

しばらくして食器を片づけようとした時にアクシデントが起きた。ユースタス屋がワイングラスを落として割ってしまったのだ。安物のグラスだったから別に割れても気にしなかったがユースタス屋は相当ショックな顔をしている。余程責任を感じているのか?ただのグラスで?なぜか俺は少しずつ苛立ちが迫ってきてるのを感じた。
片付けは俺がやるからソファーで待っていてくれと言うとなんともまぁ情けない顔で渋々向かっていく姿が見えたわけだ。
「そこまで気にするなよ、コップや皿割るぐらい誰だってする。」
怪我をした奴の手を取ると大げさにびくりとユースタス屋の体が跳ねて思わず笑った。と同時にユースタス屋の顔が引きつった。俺は笑っただけなのい不思議だな。

ぺロッ

指から真っ赤な血が流れていたのでつい舐め取ってしまった。そして歪むユースタス屋の顔。ゾクゾクとイライラがこみ上げる中、俺はこいつの願いを叶えることにした。
「来いよ、お前もそれを狙ってきたんだろ?」






「あっ、ンんぅ・・・・・ぅ・・」
男の喘ぐ声と性器をいじって響く水音が俺の耳に届く。俺の気持ちが思うがままに寝室へ引っ張って下半身を丸出しにしてチンコを揉んだり擦ったりする。素直に喜びを感じているようでいじり倒そうと考えた。
「感度良好か、すげーエロい・・・どうだ?俺みたいな細身の男に弄ばれている気分は。」
指先で玉をいじるとその刺激がもどかしいのか思わず体を揺らしてしまう姿を見て笑いがこみ上げる。
「ふぅ・・・なっ・・・で・・いきなり・・・・・・んっ!」
「狙ってたんだろ?色っぽいまなざしでいつも俺を見て・・・セックスねだりに来てるじゃないか。」
勃ち上がりかけたそれを丁寧に舐め上げて先端を舌先で刺激を与えるようにつつくと先走りがますます溢れていく。
「お、おれ・・・おれ・・は・・・・・・・」
「反論、もしくは嫌悪を感じたなら俺を突き飛ばせ。わかりやすいからな。」
憎々しく思う感情をひたすら押し殺してただひたすら快感を相手に与え続ける。俺が嫌いなら突き飛ばせ頼むから、それともお前は俺に近づき狙った理由は結局これだけなのか?むかつくむかつく・・・・・・俺だって人なのに・・・楽しいと感じたいのに・・・・・・
「すき・・なん・・・・だ・・・・・ろぉ・・・おれ・・ただ・・・すきなんだ・・・」
ピタリと手を止めた。朦朧とした目がが俺の目とばっちり合う。
嘘だ、どうせ俺とセックスしたいがために吐いた言葉だ、本当に?、だまされるな、信じたい、信じられない・・・
「体・・・目的なんだろ?こんなことされたいから俺に近づいたんだろ?それだけが目的なんだろ?なんでそんなこと言うんだ?」
自然と言葉がこぼれた。返答次第じゃ殴ろうかと思う。そうさ、こいつも今までの奴らと同じだ、きっと何も変わらない、そして俺も変わらない。
「ちが・・・おれは・・・さいしょ・・みたと・き・・・・から・・・すきに・なっ・・た・・ご・・・めん・・・・・」
泣きながらひたすら謝る男。想いを告げてただただ俺にしがみつく。
「なんで謝るんだ・・・・・・今お前の気持ちを踏みにじったのは俺だろ!?謝って泣く必要ないだろ!!!無理やりこんなことまでした俺が悪いのに・・・・・・」
俺は感情に任せてユースタス屋を抱きしめた。
「泣くな・・・謝るな・・・もういいんだ、お前の気持ちは受けとったから。」
優しく、子供をあやすように言葉をかける。鼻をすすりながら次の言葉を待ってくれた。
「でもな、俺はすぐに答えを出せない。なにせお前は俺のことを色々見てきただろうから知っているだろうけど俺はお前のことをそんなに知らない。だからお前をもっと知ってから結論をだす・・・・・・だから早く俺を惹きつけてくれ。」
もっと俺はお前を知りたくなった。もっと教えてほしいと思った。
俺の唇を男の白い頬にそっと近づける。軽いリップ音を立てて。
「これで終わらせるのはつらいから最後までしようぜ。大丈夫だ、優しく丁寧に抱いてやる。壊したくないからな・・・・それに、明日は定休日だ。」

まさかこんなところで定休日が役立つとは・・・思わず笑みがこぼれるな。







(最初の一歩は人を信じることだとやっと気付いた)





やっとできた・・・中途半端に放置したローサイド
拍手で嬉しいお言葉をもらったので完成させました!

110411