Dependence




月が高く上がったころ、俺は酒場に行く。部下は連れない、一人で飲みたい気分だった。部屋で飲むよりもどこか別の場所で自分の時間を有意義に使いたい、だから知り合いがない空間が好きで酒が進むってもんだ。
だからあいつがいるのを見かけた時はげんなりした。一人で楽しく飲めると思ったらまさか同じルーキー、トラファルガー・ローがカウンターの隅で座ってたたずんでやがる。しかも条件は同じ、部下を引き連れていない。店を変えようか悩んでいると運悪く奴は俺の存在に気付いてしまい後に引けなくなった俺は苦虫つぶした顔で渋々隣の席に座る。ここで逃げたら馬鹿にされる、そう思った俺の変なプライドが働いた。俺を見たあいつがにやりと笑ったのが目に入るのがいただけないがここで戦闘を起こすつもりはない。
周りの奴も感じているだろうがそりゃあ億越えの海賊の船長が並んでりゃ空気もピリピリするだろうな。この雰囲気に呑まれるわけにもいかないので何を飲むか悩むことにした。たまには変わった酒が飲みたい、なんて考えていると隣の奴が「奢ってやるよ。だから俺に選ばせろ。」なんて勝手に言うもんで俺は眉をしかめたがそんなことはお構いなしに店員に指示をする。これで変な酒でもだされてらまずはこいつを殴ろうか、そんなことを考えて待機する。
しばらくすると酒が来た。どうやらグラスから見てカクテルだ。いつもはジョッキでグイッといくのだがたまには趣向を変えるのも悪くない。俺の酒は深い深いグリーンで独特な香りがする。一方同じようなグラスが隣の奴のところにも渡った。奴のカクテルはどこまでも真っ白な色をしている。
「ホワイト・スパイダー・・・ウォッカベースだ。」
「白い蜘蛛ね・・・・・・じゃあ俺のこれは?」
一呼吸おいてにやりと不敵に笑って言葉が放たれる。
「『デビル』お前にぴったりだろ?悪魔の所業のごとく暴れまわったお前には。」
「面白いことを言いやがる、確かに俺向けだ。」
面白さのあまりつい笑っちまったが気にしねぇ、とりあえず一口味わう。少し辛めの味がするが俺好みだ。この独特な色も悪くねぇな。さすが『デビル』と呼ばれる酒はある。飲んでる間はこれと言って会話はせずこの日はカクテルを飲んで帰った。
次の日、同じ時間に同じ店に訪れた。またいやがった・・・・・・昨日と同じ席に座ってやがる。俺も同じく隣に座ってまた酒に悩む。だけど昨日と同じままではムカツクので隣の奴にもちかけた。
「今日は金は俺が払う。だからお前が酒を選べ。」
一瞬驚いたかのように見えたがすぐにいつもの不敵な笑みに戻った。
「それじゃあお言葉に甘えて・・・こんな酒はどうかな。」
バーテンに注文する男、早いもんですぐに目の前に注文のカクテルが用意される。今度のは澄み切った鮮やかな青の色をしている。
「ブルー・ラグーン、水に嫌われて俺たちにぴったりなカクテルだよな。」
同じようで違うカクテルが隣にも置かれる。確かに憧れてやまない色、この色に惹かれている、こいつはなかなかセンスがいいようだ。
味はまずまず、レモンの酸味がきいてさっぱりな感じが悪くない。女向けな気もするが
色はかなり俺好みだ。
案外こいつといるのも面白いかと思った。もちろん敵だから戦うときは容赦はしないが今はこいつも俺も部下を連れてない一人の男、対等に酒を飲んでもいいのではと俺は自分に対して甘やかす。
こんなやり取りが数日続いた・・・・・・












ここ数日、何気ない俺の楽しみが増えた。それは同じ億超えルーキーの一人にカクテルを勧めるという何と言うか奇妙な楽しみだ。
事の発端は一人でゆっくり酒を飲もうかなんてぼんやり考えていたら同じ店に赤い髪をした派手な恰好の男が見えた。ちらっと見てにやりと笑うと案の定向かってきやがった。まぁ戦闘しないなら別に隣に座ろうが構わないと思ったが意外にも可愛い顔して悩んでいるからつい口を出した。そして嫌味と敬意をこめて『デビル』を注文した。そしたら更に以外にも気に入ったような顔をした。俺は何も言わなかったが少し喜んだ気もしなくはない。奢る話以外に何も話さずその日は終わったが次の日も同じように来店、今度も俺が酒を選べとぬかしやがった。ちょっと驚いたがすぐにいつもの俺の表情に、今日の気分とこいつの存在の意味を込めてブルー・ラグーンを選んだ。俺は別の酒、ブルー・ハワイを注文。きっとこいつは酒の種類なんて気にしないだろうな。この鮮やかな色がやはり好きだ。俺にはない色をカクテル表現できているのだから。また今日も会話が盛り上がることなく夜を終えた。こんな日が何日か経った。

ある日、賞金稼ぎの襲撃で仲間が何人か怪我を負った。幸い死者は出ておらずここ二・三日はクルーの治療とやられっぱなしは気が進まないので襲撃した賞金稼ぎの居所を探ってバラしたりしていた。もちろん酒場に行く時間は割けなかった。とても歯がゆいが俺は船長としての義務を果たさなくてはならない。
治療もバラしも一通り終えた次の日、最近あの男が暴れまくっている噂を聞いた。一般人は巻き込んでいないだろうが恐らく馬鹿みたいに吹っ掛けた賞金稼ぎや敵海賊などを
ボロボロにしたのだろう、ご愁傷様。でもいくらなんでも暴れすぎではないか?と、俺は首をかしげる。まぁ直接聞いて機嫌を損ねた理由でも聞いてみよう。
人気のない路地裏を彷徨ってみる、するとボロ雑巾のような男たちがその辺に倒れてやがる。懐に拳銃を持ってたり刀を握っているところを見ると一般人ではないのは明らか、辛うじて生きている程度だと判断できる。その屍のような群れの先に一人長身の男が立っている。見慣れたあの男がぞくぞくする形相で立ってやがる。
「機嫌悪そうだな、ユースタス屋」
声をかけると恐ろしい眼がこちらを見る。いいねぇ・・・その眼は俺を惹きつける。
「何の用だ・・・」
「馬鹿みたいに暴れている理由を尋ねるために来ただけだ。場所でも変えようか?」
チッ、と舌打ちをして俺の後ろを渋々ついて行く。俺はできるだけ人がいない静かな場所を選んだ。
「騒ぎは起こさない、これが暗黙の了解じゃないのか?海軍に嗅ぎ付かれると面倒だからな。」
「・・・・・・・・・」
沈黙を守ろうとする男、馬鹿な奴だ。派手な恰好してるくせに、てかよく見りゃ返り血浴びている男が静かにしているのは実に滑稽だ。
「俺とカクテル飲めなかったのが寂しかったのか?」
「んなことっ!・・・・・・」
「早い否定は本音を表す、知ってたか?」
どうやら核心を突いたようで何も言えなくなってしまう目の前の男。そろそろ俺も素直になるころだな。
「私情で3日以上店に来れなかった。寂しかっただろ?」
「だから俺は」
「俺は寂しかった。」
目の前の男がハッと顔を上げた時にはもう遅い。俺は距離を詰めてギリギリの位置に立っている。
「あの日からお前と近くに居れるのがたまらなく愛しくなった。長い時間お前との世界を共有したいと思った。お前が欲しくてしょうがねェ・・・」
とりあえず俺の気持ちは包み隠さず話したはずだ。さて、ユースタス屋はどうだ。
「お前が来なくなって・・・・・・ムシャクシャした・・・わけわかんねぇしお前と会えないからなんてぜってーありえねえし・・・」
「気を紛らわすために暴れたってか?」
悔しそうに頷く。どうやらユースタス屋は自分の気持ちをまだ理解してないようだ。そしてそれを言葉と言動にどう表せばいいのか分からず暴れるという行動に走ったようだ。不器用で可愛い奴。


「お互いの気持ちを知れたところで酒場に行かないか?今日もおススメしてやるよ。」
そうだ、今日は同じカクテルを飲んでみよう。そうすれば鈍いこいつの心も少しは理解してくれることだろう。
俺がいかにユースタス屋を必要としているを。





(まずはキウイマティーニで乾杯しないか?)





ぜんま様へのお誕生日小説
書き始めて酒ネタは来年にすべきだと後悔したのは遅かった・・・
キウイマティーニは4月お勧めのお酒だったりするのです(調べたorz
原作ネタってあまり書かんからうまく書けているか心配デス
ぜんちゃんはぴば!!

110403