刺激と生活






『じゃあパパたちは行くけどちゃんとキッド君の言うことをちゃんと聞いていい子にしてるんだぞ?』



それが別れの言葉だった。

研究者である俺の両親はしょっちゅう家を留守にし必要とあらば引っ越しを繰り返す。俺はそれに黙ってついていく。友達はそれとなく作って別れる時にメルアド交換。あ、俺小学生だけど一応防犯と連絡が取れるようにとかを考えて親が持たせてくれた。必要とあらば新機種にでも変えていいと言った。
今を何気なく生活していればそれで十分だと自分でも本当に小学生なのかと疑うほどその人生を悟っていた。要は俺の生活に刺激がないんだろう。面白味も何ともない普通、これが一般でありこれが人間なんだ。だから俺は願った。刺激が欲しい、俺の人生を丸々と変えちまうような面白い何かが起こってほしい。俺が退屈で押しつぶされないような何かが。でもそれは半ばあきらめていたりする。



俺が小学6年を迎え夏休みを終えたある日、両親がまた開発プロジェクトの為に家を離れると言ってきた。しかも今回はある夫婦と共同でのプロジェクトで大掛かりなものになるため海外で作業することになったらしい。俺も海外までついていかなくてはならないのかと思ったが変に両親は俺に配慮してくれた。やっと慣れた今の土地を離れるのはあまりに俺にとって大変と考えた両親は、共同開発で一緒になった夫婦の子供のところに俺を預けると言う話を持ちかけてきた。
子供といっても高校生の16歳、俺と5歳差だ。俺はその高校生の子供を持つ夫婦と直接会う機会が合ってそいつについて色々聞いた。俺みたいに転校を繰り返すことはないまでも家では一人でいることは多いらしい。写真を見せてもらった。赤い髪、鋭い目つき、不良じゃないかと思える全体の姿、口を開いたら酷い言葉を吐き出すのではないかとだんだん想像していく。こいつとしばらく暮らさなきゃいけないんだな・・・とぼんやり思いながら名前を聞いた。ユースタス・キッドと言うらしい。不良みたいな顔で正直不安だけど俺は親に「こいつと一緒は嫌だ」と言わなかった。言うつもりはなかった。一生懸命頭働かせて金稼いで周りの環境が変わって苦労している俺にすこしでもいい生活をさせようと必死な親に俺はわがままを言うことはしなかった。迷惑をかけたくなかった、困らせたくなかった、ただそれだけなんだ。寂しいなんて思ったことはない。一人でいるのが当たり前。ただ本当に困ったときだけ誰かに頼ればいい。人なんてそんなものだろ?




別れる瞬間まで母さんは俺に抱きついたままだった。「大変な思いをさせてごめんね。」とか何とか言いながら俺から離れない。やっぱり俺の親は優しいのだ。マンションの部屋の前まで俺の両親とユースタス・キッドの両親が付いてきてくれた。
その時に俺は手紙を預かった。戻ってきたユースタス・キッドに渡すようにと。どうやら俺を預けると言う話は本人にしていないようで預かる本人の俺が思うのもなんだけど親に振り回されてかわいそうだ。
そして最初のセリフを俺に投げかける父さん。




一時間ぐらいしてこの部屋の主が帰ってきた。当然俺の姿を見て不思議そうな顔をしている。きっとこの後むしゃくしゃすると思われるがそれは俺のせいじゃない。文句なら自分の両親に言えよ?
とはいえだ、このままこの赤い髪した奴の言うことをちゃんと聞いて素直で優しい子供を演じるのも少し癪だ。なんというか命令されるのが好きじゃない。だから俺はこいつに対して俺様主義を通そうと思う。異論はない。
案の定こいつは俺にイライラしたようだ。手紙を読んで更にイライラしている。こいつは面白い、しばらく俺の遊び相手になってもらおう。これなら退屈しないで済みそうだ。
とりあえず腹が減った。






謀られた・・・・・・まさかマーボーナス、というかナスが用意されていたなんて・・・
俺は別に嫌いな食べ物なんてほとんどないんだけどナスの食感はぐちゃぐちゃしててどうも苦手だ。トマトは大丈夫だけど。当然笑われた。澄ましてるガキがナスが苦手とわかってさぞ嘲笑していることだろう。ムカツク・・・
意外にも手際がいいこいつは俺に合わせて普通の飯を用意してくれた。野菜炒めとご飯、そして生姜焼き。
・・・・・・普通にうまい。でも俺は素直じゃないから「まぁまぁ」と答えた。まずいなんて言ってないし。
俺が食べ終わって落ち着いた時、こいつは夕食には何が食べたいかと俺に訊いてきた。
なんか初めてだな。いつも親とはレストランだったし、一人の時はレトルトとかカップめんとかだったからリクエストなんて考えたことなかった。
とっさに思いついたのはオムライス、正直好きなんだ。子供だからしょうがないなんてこんな時ばかり俺は子供面をする。
オムライスに自信があるらしく笑って任せろと言うこいつ、俺はちゃんと卵を巻けるのかと心配になったが自信満々だったから多少信じてやることにした。
俺も結構疲れてたんだ、買い物には付き合わず用意された部屋で眠ってしまった。
起きた後のオムライスは昼飯よりおいしかった。自信作と言うだけある。久々に食事で笑ったかもしれない。


片付けとかなんかとりあえず終わって本格的なことは土日にきっちり終わらせることになった。
パジャマを着て寝る直前になって俺はあいつの部屋に入った。悪い奴じゃないしこれがあたりまえだと思って伝えようとした。でもやっぱりからかわれた。一人がさびしいかって。こいつは俺をどこまでガキ扱いすればいいんだ。ちょっと怒ったけどやっぱり訂正して・・・伝えた。

「お・・・・・・・・・・・・・・・・おやすみっ!」

恥ずかしくて部屋を出た。俺からこんな言葉が出るなんてあいつにとって意外だったかもしれない。でもちょっとだけ当たり前の生活に憧れていたから言ってみた。あれで正しいんだよな?あいつの返事も聞かず俺はすぐに部屋に戻ってベッドに入りこむ。そして必死に目を閉じる。返事は聞けばよかったのかな?と考えたり・・・


こうして俺とユースタス屋の変な共同生活の一日目を終えた。



(刺激を求めた生活のはじまりはじまり)





ショタ攻めに夢を持つ






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