×○県 麻技市――
山と海に囲まれた、自然豊かな土地
そしてのどかな街並みが並ぶ、都会の様で田舎な街
その土地にはちょっと有名な、大家族がいました
*****
『いい加減にしないと遅刻すんぞっ!』
とある住宅街に響く、甲高い声
それはとある住宅から漏れていた
「何で毎朝こーなるんだぁ?」
「おかしいなぁ、ちゃんと目覚まし時計セットしてるのに…」
優男風のスーツを着込んだ男性と、飄々とした男子高校生がトーストをかじりながらボヤく
「てめぇらが中々起きねえからだろーが。ったく、毎朝毎朝…」
「トシ兄さん、説教はそれ位に。俺達も遅刻してしまいます」
「姉さん、急いで!」
モデルと見間違える程の美男子が、隣で呆れる様に呟き
それを一見クールそうな男子高校生が、彼に歯止めを促した
その男子高校生の隣では女子高校生が、室内に声を掛けていた
「ね、姉ちゃん!靴下何処っ!?」
『そこにあんだろ!弁当は鞄の中!』
「サンキュー!姉ちゃん!」
中学生とも間違われそうな男子高校生と、しっかり者の雰囲気が漂う女子高校生が室内で大慌て
この家では毎朝、コレが日常茶飯事だったりする
麻技市でも有名な大家族、近藤家
その理由は全員血が繋がってない、義理の家族だからだ
父親であり、家長である近藤勇
彼は特殊な子供達を引き取っている、言わば里親みたいなものだ
特殊な環境で育った子供達を引き取った為か、子供達も特殊強いこと
父である勇は麻技市でもマンモス校の、薄桜学園校長を勤める
幼等部から大学部、多数の専門学科を取り揃える薄桜学園の校長職は何気に忙しい
その忙しさ故か、自宅に中々居られない
では子供達はというと?
しっかり者達がいるので、何とか生活出来ていた
…問題児が、数人いるが…
■■■■■
「只今ぁ!」
時は夕暮れ
近藤家では家事全般を賄う長女・鈴々音が、夕飯の支度をしていた時だった
…因みに彼女は薄桜学園三年で、現役受験生だ
『………父さん?』
滅多に会えない養父・勇が早くに帰宅し、鈴々音は目を見開く
「今日は早く帰れてな!済まなかったな…」
『や、皆分かってるから良いけどさ。つか父さん…ソレどうしたの?』
彼女が指差したのは、勇が抱えてる背丈をも超える笹
「用務員の島田さんに貰ったんだ!皆はまだ部活かい?」
『…デカ…あ、うん。大会近いからね…まぁもう少ししたら、お腹空かせて帰ってくる…』
「只今ぁ!お腹空いたぁ!」
『…ほらね』
言ったそばから、玄関方面より元気な声が響いた
それに勇も鈴々音も苦笑
部活帰りの男兄弟を早々に風呂に入れさせ、久々に近藤家全員揃っての食卓となった
「お、素麺」
『今日は七夕だからね』
その言葉に、末妹・千鶴は首を傾げた
彼女もまた、薄桜学園に通う一人。今年の新入生だ
「七夕だから、素麺?」
「そか。千鶴は最近来たばかりだから、知らないよな」
千鶴はつい最近近藤家に迎えられたばかり
その為か、男兄弟は彼女に甘い
「仙台とかは七夕に素麺を食うんだよ。麺を糸に見立て、織姫のように機織・裁縫が上手くなることを願うという説があるらしくてな。んじゃソレを取り入れようか、って始まったんだ」
分かりやすく千鶴に説明してくれたのは長男・歳三
養父・勇が自宅に中々居られない、この近藤を纏める大黒柱的存在だ
仕事が薄桜学園教師だけに、説明するのには慣れている
「へぇ…」
「因みに言い出しっぺは鈴々音な」
back mae tugi