――明治二年

新年を迎えて暫く経った時、それは訪れた



『……………和泉?』

「………さむぃ、助けて…」



トシが珍しく俺の部屋に来た…と思ったら、背後から見慣れた妹の姿が

しかも身体を寒さで震わせ、今にも倒れる寸前


………どういうこっちゃい



『兎に角入れ』



二人を自室へと招き入れた俺は、直ぐにお茶を入れた

勿論あっついのを



「おぉ、すまねぇ」

「ありがとぉ…」

『んで?今回は一体、どういう経緯だ?』



眼前にいる、震える娘は俺にとって妹当然の存在

だが…彼女は俺と異なる世界に住まう者。何の縁か俺達はこうして、互いの世界を稀に行き来する


合縁奇縁、とは正にこの事だ



「俺の部屋の裏手で、ぶっ倒れてやがった」

「……気付いたらいました」

『オイ』



なんだ、それ?

和泉、着物が春物じゃねぇか…また時間軸違ってんのかよ



『凍傷なりかけだし…暫く安静』

「………あい」



まぁトシも何度か、和泉の世界に行き来しているし。慣れたものだ

……いや。本来ならば、慣れたら駄目なのだが


と。言う訳で、再び和泉との再会と相成った



「………鈴々姉、なんかあった?」

『Ah?』

「雰囲気が違う」



全くこの妹は…本当に鋭い

まぁ俺達と似た時代を歩んでいるんだ、当たり前だが



『少し、な』

「……鈴々姉らしくない」



頬を膨らまし、途端に和泉は不機嫌になる

ったく……



『らしくねぇとは何だ、らしくねぇとは』

「ちょ、鈴々姉っ!?」



不機嫌な妹の頭を乱暴に撫でてやると、非難の声が上がる

コロコロ変わる和泉の表情は、何時見てもあきないな



『……和泉。どんな事があろうと、魂の耀きを失うな』

「what?たましい…の、耀き…?」

『ああ…お前が信念を貫き続ける限り、お前の魂は眩く光輝き続ける。だが信念を絶てば、輝きは忽ち消え去る』



魂の輝きは、それ即ち自身の想いの強さ



『歴史に名を残す者は、全て魂が耀いていたと言う。お前も…そんな風に、耀いてみせろ』

「私が?んー…歴史に名を残すつもりはないけど、想いの強さだったら誰にも負けないっ!!」

『…それで良い。お前はお前らしく、愛しい者とあれ』










――私はその時、気付かなかった

鈴々姉の瞳が、悲しげに揺れてたのに



当たり前過ぎて…失念してた


なんで忘れてたんだろ…

鈴々姉が、別世界の人だって



数日後、私は元の世界へと戻った

そして…鈴々姉が私へ言った言葉の意味を、その時に理解する




『バイバイ』





「っ!?」



突然脳裏に過った、聞き慣れた声音

心臓を、鷲巣かみされた感触を覚える



「どうした、和泉?」

「いま……鈴々姉の声が…」



さっきの言葉は…まさか!?

じゃあ…あの時、私にいった鈴々姉の言葉って!?



「…そんなん…ないよ…」



なんで?なんで?

鈴々姉と土方さん、これから幸せにならなきゃダメなのに…



――和泉。どんな事があろうと、魂の耀きを失うな



あぁ、鈴々姉は全部分かって…分かってたから…



「やっぱ…鈴々姉、かっこいーなぁ…」



でもね?やっぱり私、鈴々姉に幸せになって貰いたいよ

お姉ちゃんの幸せを、妹が願っても良いじゃんか



「鈴々姉ー!がんばれー!」



やっぱりさ、鈴々姉は土方さんと一緒じゃなくちゃね!



余談だが。

二人がどうなったかは、数年後に知る事となる



魂の耀き 完


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