――それからまた数日後



「……おねぇちゃん……」



月が夜空に上がる時間


土方家の部屋の一つに、影が二つ映る

此処は紫苑と和泉に宛がわれた部屋だ


その中で二人は、表情を険しくさせている

そして紫苑は何かを決心したかの様に、立ち上がった



『………行くぞ』

「……ぅん」



涙声で和泉は返事を返す


そして月明かりの中、二人は廊下を静かに歩んで行った



*****



「……寝れねぇ」



所変わって、歳三の自室

寝床に着いていた彼だったが、何故か今日は妙に寝付けなかった



「(…妙な胸騒ぎがする…)」



歳三は軽く嘆息を漏らすと、庄子を静かに開ける

中庭を眺めていると、その眼(まなこ)に二つの影が写った



「…あれは…」



目を細め、影を見やると…それは紫苑と和泉の姿

それに歳三は目を見開く



「…まさかっ!」



彼の脳裏に過ぎった、ある予感

草履も履かずに歳三は、中庭へと飛び出した



「紫苑!和泉!」



歳三の悲鳴じみた声色に、二人はゆっくりと振り向く

二人の表情は何処か、申し訳なさそうな…そんな表情だった



「…にぃちゃん…」

『あっちゃあ…見つかったか…』

「……行く、のか?」



彼の問い掛けに、二人はやんわりと頷く

よくよく見ると二人の姿は、半透明になっていた



『…呼ばれたんだ』

「おとうさんとおかあさんの声がしたの」

「…そう、か…」



急過ぎる別れに、歳三自身も今だ受け入れられていない

すると和泉がその瞳に、雫を溜め始めた



「……やぁだっ!」

『和泉?』



涙を零しながら和泉は、歳三に抱き着く



「…和泉…」

「やだやだっ!おにぃちゃんができたのに、バイバイするのヤダっ!」



駄々をこね、和泉はぽろぽろと涙を零す

そんな和泉に紫苑が、ゆっくりと語りかけた



『大丈夫、またきっと会える』

「…また、あえる?」



涙でぐしゃぐしゃの和泉に、歳三は柔らかく笑む



「あぁ…また、会える…」

「……うん、じゃ…バイバイはいわない…」

『和泉、良い子だね』



次第に二人の姿は消え始め、姿が保っていない


だがそれでも

二人は歳三との視線を逸らさない



「…またな。紫苑、和泉」

『あぁ…またな』

「にぃちゃん…またね…」



笑みと共に、二人の姿は粒子となって消えた

歳三は夜空を見上げ、その空に拳を突き上げる



「……またな」









――その数十年後



「……ゴメン、また来ちった!」

「『またかよ!?和泉!!」』



三人は、再び巡り会う




遠き日の出会い 完




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