和泉の表情を見詰めながら、紫苑は思考に浸る

その冷静な判断力は、大人顔負け



『(いや、嘘が付ける状況ではない。それに…この子は…何かが【違う】気がする)』



黙って思考に浸った紫苑を見て、和泉は不安になったか

その大きな瞳に、雫を溜めてしまう



「っ…!!おとぅさぁんっ!おかぁさぁんっ!!」

『だぁぁ!落ち着け!泣くなっ!!』



再び泣き出した和泉に、紫苑は慌てて宥める

彼女の必死の宥めに、和泉は暫くして涙を止めた



「…ヒック…」



不安なのだろう、和泉は紫苑に抱き着いて離れない

それに彼女は表情を強張らせる



『…(参った…此処が何処だかも分からないのに…訳の分からない餓鬼まで…)』

「お前ら、何してんだ」



不意に紫苑達の背後から、声が掛かる

その声に振り向くと、そこには黒髪の少年の姿があった


年は十ニ・三程だろうか

黒髪を一つに括り、端正な顔付き



『………此処は何処ですか?』

「は?何言ってやがる、此処は多摩だ」



紫苑の問いに、少年は訝しげな表情で返す

だが彼女は、眉間に皺を寄せるだけ



『(多摩?一体何処だ?)』

「おにぃちゃん。"たま"ってどこ?」

「はぁ?」



紫苑の腕の中から、和泉が少年に問い掛けた

すると少年は益々、訝しげな表情を深める



『(まさか…)此処は奥州か?』

「奥州だぁ?違ぇよ、此処は武蔵の多摩だっうの」

「おうしゅう?むさし?たま?」



再度問い掛けられた少年は、苛々した声色で返す

和泉は二人の会話に出てきた、地名に首を傾げるだけ



『最後の問いだ。今の年号は…文録か?』

「何だそりゃ?今は弘化(こうか)だぞ」



噛み合わない会話の内容

紫苑と少年の顔付きが、急に険しくなる



「へいせい、じゃないの?」

『「……………』」




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