そんな疑問を抱えつつ、鈴々音は準備室へと足を踏み入れた

土方は既に机に向かい、書類と格闘している



「…で。何の様だ?」

『あー、えと…』

「はっきりしねぇか」



煮え切らない口調の彼女へ、土方は睨み付けた

鈴々音は息を呑んで、ある物を差し出す



『……これ』

「……何だ、こりゃ」



彼女が差し出したのは、小さな青い箱

ソレを視界に入れた土方は、首を傾げる



『…バレンタイン、だから…』

「…………」



この2人、実は世間で言う恋人同士


だが教師と生徒と言う立場である為、恋人的な事を殆どしていなかった



「………俺より、原田にくれてやれ」

『………は?左之?』



だが彼から出た言葉は、予想外の物で

思わず鈴々音は、目を見開く



「名前で呼び合う仲なんだろ、お似合いじゃねぇか」

『……………』



鈴々音を見ず、土方はつらつらと語る

一方彼女は、無言で俯いていた



「俺なんかより、アイツと付き合っちまえよ。調度良いじゃねぇか」

『………本気で………』

「あ?」



俯きながら、鈴々音はポツリと呟く

彼女の言葉が聞き取れなかった土方は、問い返しながら漸く鈴々音を見る


すると見る間に、目を見開く


ポタリポタリ、と

鈴々音が涙を流していたからだ



『……本気で、言ってるの?』

「っ!!あ、あぁ!!本気だ!」



何処かやけくその様に、土方は叫ぶ

すると鈴々音は手元にあった小さな箱を、彼へと投げ付けた



「ってぇ!!!」



箱は土方の頭を直撃し、悲鳴が上がる



『左之は相談に乗ってくれてただけだっ!トシの馬鹿っ!!』



そう叫ぶと、鈴々音は準備室から飛び出して行った

土方は痛む頭を摩りながら、落ちている箱を拾う


そしてゆっくりと箱を開けて、再び目を見開く



「…………阿呆は俺、か」



土方はそう呟くと、勢い良く準備室を出て行った



■■■



所変わって屋上

その隅の方に、鈴々音が膝を抱える様にうずくまっていた



『………………』



顔を膝に埋め、涙を必死に堪える


生徒と教師

必ずしも良いという関係ではない、寧ろ世間体に悪い関係である


だが鈴々音はそれでも良いと思っていた

彼と、土方と想いが通じ合っている限り



だが現実は、そう上手くいかなかった



『………何が、いけなかったのかな』



二人の関係を知る者は、数少ない

左之助もその内の1人であり、鈴々音の良き相談者であった


まさかその左之助との仲を、土方が疑うとは…彼女も盲点だった



「こんな所に居やがったのか」



不意に鈴々音の背後から、聞き覚えのある声色が響く

目を見開きながら、彼女が振り向くと


そこには肩で息をする、土方の姿があった



「ったく…学園中捜したぞ」

『………何?』



先程の彼の言葉を引きずっているのか

鈴々音はふて腐れた様に、吐き捨てる


すると土方は、そんな彼女に苦笑いを浮かべた



「……悪かった」

『…………………は?』



彼の言葉を聞く途端、鈴々音は目をこれでもかという程見開き、背後を急に振り向く

その反応に、土方は頬を引き攣らせる



「んだよ、その反応は。俺も間違った事は、ちゃんと謝るっーの」

『あ、うん…』



目を瞬きながら、彼女は頷くしか出来なかった

そんな鈴々音に、土方は続ける



「俺は常々、思ってたんだよ。お前は…俺なんかじゃなく、年相応のヤツと一緒が良いんじゃねぇか…ってな」

『っ!!』

「……だけどな」



そこで言葉を切った土方は、視線を鈴々音に合わせた

土方は膝をつき、ゆっくりと彼女の頬に手を伸ばす



「だが、お前が…俺を必要としてくれるなら…俺はもう、本音を隠さねぇ事にした」

『……と、トシ?』



土方は淡く笑み、鈴々音の耳元で呟く

すると彼女の顔が見る間に、赤く染まる



「…真っ赤だぜ、おい」

『っ!!だ、誰のせいだっ!!』











ひらり、と

数学準備室に、風が吹き込む


その机の上に、1枚のメッセージカードが

そこには、こう記されていた




【貴方を永久に愛します】








Bitter Bitter 完





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