「きゃ〜!!!」




2月14日、s'tバレンタイン

その日の女性は、誰しも心踊る


……例外を除いて



『………大量だな、おい』

「人事みてぇに言うなっ!!」



ここは薄桜学園

学園内では、桃色のオーラが漂いまくっていた


その裏庭にひっそりと隠れる様に、男性数名が姿を潜めている

彼等こそ、この学園で人気を誇る男子学生達


それ故にこの時期は、女子から逃げる

何故なら……



『本当、ずっげぇ量。紙袋足りるかね』

「……足りないと思う」



人気故に、彼等に渡るチョコの量が半端無いのだ

100個は軽く越え、300個や400個の世界



「甘いモノは嫌いじゃないけどさ、この量は嫌になるね…」



いくつもの紙袋を眺めながら、げんなりする青年

――2年、沖田 総司



「確かに…総司の言う通りだ」



総司の言葉に頷く、真面目そうな青年

――2年 斎藤 一



「俺、夢に出てきそう…」



眉尻を下げ、嫌々そうな表情を浮かべる少年

――1年 藤堂 平助



「この時期だけは、流石の俺も辛ぇわ…」



表情を引き攣らせながら、髪を掻きむしる赤髪の青年

――3年 原田 左之助



『まぁ…諦めろや…』



このメンバー唯一の女性であり、この5人に普通に接する数少ない女子生徒

――2年 伊達 鈴々音



「っーか。帰りまで、これが続くと思うとよ…」

「…俺、嫌だ…」



この騒ぎが毎年恒例になっており、5人にとってこの時期だけは地獄

因みに教師陣は無駄だと、早々に諦めている



「ねぇ、鈴々音」

『ん?』



ふと。総司が思い付いた様に、鈴々音に問い掛けた



「鈴々音からのチョコって無いの?」

『………』



彼の言葉に、鈴々音へ視線が一斉に向く

対する彼女は、眉間に皺を寄せた



『まだ欲しいか、てめぇら』

「っうか。知らない女からより、鈴々音のチョコが欲しいぜ。俺は」

「俺も欲しいっ!!」



総司に便乗する様に、左之助と平助が続く

良く見ると、一も無言で頷いていた



『………放課後に生きてたら、な』

「……難しいぞ、それは」



毎年放課後になると、5人は生きる屍と化している

何せ。学園の女子生徒の殆どが、彼等に群がるからだ



『ほーれ。もーすぐチャイム鳴るから、全速力で教室に走れっ!』

「へーい…」



足取り重く、彼等は自身の教室へと向かう

だが左之助だけ、鈴々音へ踵を返した



『左之?』

「(渡したのか?)」



誰にも聞こえない様な小声で、左之助は彼女へ耳打ちする

途端に鈴々音は、肩を揺らす



「(その様子だとまだ、だな)」

『(…【あの人】も、お前等同様に人気だからな…)』



苦笑地味た笑みを浮かべる彼女に、左之助は肩をすかす



「(んなの関係ねぇよ。てか、【あの人】はお前以外のチョコを受け取ってねぇぜ)」

『………マジでか』



左之助の言葉に、鈴々音は目を見開く

彼女の反応に、左之助はニヤついた笑みで続けた



「ああ、マジで。この目で現場、見たからな。愛されてんなー、鈴々音?」

『………るさぃ』



左之助の茶々に、彼女は頬を赤く染める



「【あの人】は、お前一筋だよ」

『……………』



穏やかに左之助が笑むと、鈴々音は照れ隠しの様に髪を掻きむしった



だがそれを

ある人物が目撃していたとは、2人は気付かなかった



■■■■■



放課後

鈴々音は生きる屍と化した5人に、チョコを渡した後


とある場所へと向かっていた

それは――数学準備室



『(左之はあー言ったが…どうやって渡すんだよっ!!??)』



数学準備室の扉の前で、鈴々音は往復左復する

すると突然、数学準備室の扉が開いた



「……扉の前でうろちょろすんな。入るのか、入んねぇのか、どっちだ?」



現れたのは学園教師の中でも、生徒に大人気を誇る数学教師

――土方 歳三



『は、入りますっ!!』

「……なら、とっとと入れ」



眉間に皺を寄せながら、土方は準備室へと戻る

そんな彼に、鈴々音は首を傾げた



『(妙に不機嫌だな…)』


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