「そう言えば…兄様は?」
たわいない話を交わしていた二人だったが、時間が時間だ
お千は帰る事にし、千鶴は見送りに
屯所の廊下を歩く途中で、お千が千鶴へ問い掛けた
「…相変わらず忙しい毎日だよ。ちゃんと休んでって、言ってるのに…」
「兄様らしいわね」
表情をむくれさせる千鶴に、お千は苦笑
不意にお千は、足を止めた
「お千ちゃん?」
「しっ…」
千鶴は振り返り、問い掛ける
お千は唇に人差し指を宛がい、耳を澄ますかの様に遠くを見つめている
――…月明かりに導かれ 出会うは奇跡…
微かに聞こえる歌声
それは女性とも男性とも分からない、声色
けれどもその歌声は、美しくて
二人はつい聴き入ってしまう
「綺麗…」
「誰の声だろう…」
二人の足は自然と、歌声の方向へと歩んでいく
mae tugi
←