―…壮兄ちゃん!
懐かしいな…
あれは確か、俺が11か12の頃だったか。親父の知り合いのガキを預かる事になったのは
親父の知り合いは東京住まいなのにも関わらず、何故か俺の親父にガキを預けた。不信感を抱いていたが、親父は頑なに理由を語らず。結局理由は分からず仕舞い
それよりも預けられたガキが厄介だった。僅か8才、だが駄々を捏ねる事もなく。聞き分けも良い…いや、良すぎる程に
―…ボクはね、【子供らしくない子供】なんだよ
正直ソレを聞いた時は、馬鹿かと思った。子供らしくない子供って、意味分からねぇよ。だがその意味も、後日痛感する事になる
―…ボクは、【異端】なんだよ。そしてヒトは【異端】を【化け物】と呼ぶんだ
ある事件がきっかけで、俺はガキと普通に会話をする様になり…ソイツが漏らした言葉に、俺は怒りを覚えた。テメェみてぇなガキが、何悟ってやがる
―…ボクはね、爺さまと弟にしか認識されていない。それ以外の人物は、視線すら合わせない。それがボクの【当たり前】
ガキの存在を拒絶しているなんて、更々信じられず。だが親父がこっそり、俺に教えてくれた。本当にアイツはそういう生活をしている、と。そう言う環境にいるんだ、と
吐き気がした
大の大人が寄ってたかって、子供を拒絶してるなんざ。それから俺はガキに、色々な事を教えた。遊び方から人の付き合い方やら…
―…壮兄!これ何?
その甲斐あってか、一週間もしたらガキの性格は一変。明るく元気な…いや、元気過ぎるガキになりやがった。好奇心旺盛過ぎて、怪我は耐えぬはで…目が離せねぇ。何か間違えたか?
―…良い、の?
―…ああ…ええか、約束忘れんやないで?
―…うん…忘れない、絶対に忘れないよ。荘兄…
ガキが東京に戻る際、俺は約束を交わした。幼稚で戯言の様な笑っちまう内容だが、それでも良いと思っちまったのは…
コイツがだらしねぇ程に笑ってるからだろう
―…やるわ
―…これ?
―…"約束の証"や。無くしたらアカン、ええな?
―…うん…うん!!
すっかり忘れてたな
12年前の約束なんざ、アイツも忘れてんじゃねーか?だが…とある一件で変わったガキと出会った。藤島鳴海…アイツと同じ名字、まさか…な
しかしアリスに見せて貰ったガキの姉貴の顔写真を見て、考えは確実に変わった。藤島鳴海の姉貴は…"アイツ"だ
成長してガキの頃の面影は、殆んど残ってねぇ。だが意思の強い瞳は、今も現在だった
12年前の約束が、俺の脳裏に蘇る
何故忘れていた?
言い出しっぺは俺だった筈…ヒソンの事があったからか?
…いたいの、いたいの、とんでけー。いたいの、いたいの、とんでけー
これまた懐かしいな…
アイツが良く怪我した時、俺が唱えてやってた
カチリと金属音が、室内に響く。何だ?誰か、いるのか?
"………早く、目を覚ましてよ…壮兄…"
「…っ!?燐っ!!」
そこには誰の姿もなく
頬が濡れてた事に、俺はただ呆然とするだけ
首元に懐かしい証が、月光に反射して光るのにも気付かず
11.11.20.