『アンタが、平坂錬次?』
「…あんさん、誰や?」
鋭い視線が俺を貫く
稲妻の様な金色メッシュのシルエット、ゴーグル型のグラサン。そして平坂組代紋に似た、揚羽蝶の刺繍が入ったシャツ
『弟が言ってた通りの風貌だな、分かり易かったわ』
「……弟?」
訝しく俺を見やる錬次に、不敵に笑んでやる。気付いてないのかね、コイツ
『お前と義兄弟の盃を交わした生意気な餓鬼、覚えてねぇの?』
「もしかして、ナルミの…」
『実姉』
ニヤリと笑うと、錬次は目を瞬かせる。そんなに信じられんのか
「はぁ、ナルミの姉ちゃんが俺に何の様や?」
『んー…とりあえず、アンタに忠告を』
「なんやて?」
錬次の瞳が益々鋭くなる
だが俺はこれ以上キツい眼光を、餓鬼の頃から見慣れてるからどーって事ねぇ
『弟から話は聞いてる。だがアンタが知ってる真実は、本当に真実なのか?』
「何が言いたいんや?」
『人を守る為に、人は真実を隠す事がある。真実の裏の、更なる真実てのが…あるんじゃないか?』
淡々と語る俺に対し、錬次の殺気は益々高まる一方。おいおい、ちったぁ冷静になれや
『雛村壮一郎と言う人物を、幼少の頃に会っているから知っている。彼は無駄に馬鹿が付く程に、面倒見が良い。それはアンタだって知っているだろう?』
「…それ、は…」
口ごもる錬次に、俺は容赦無く続ける。真実はテメェで気付いた方が良い、その切っ掛けになれば…
『そんなヤツが、女を盾にするか?私が知っている雛村壮一郎と言う人物なら、逆に庇っている』
「ならっ!ならあの金はなんや!?」
錬次が言っているのは、後藤田組長から流れただろう大金の事だ。だが忘れているだろう、雛村壮一郎と言う人物を
『さてね…それは私の知る所じゃない。けど【あの人】は、何かを守る為なら自身を省みない…そんな人だよ』
「……よぉ、知っとるの」
確かに知っている、知っているからこそ…いや、止めよう…彼との繋がりは弟だけで充分だ
『まぁね。っても私と四代目が知り合いっーのは、鳴海が知らない事だから伏せていて貰えると助かるんだが』
「な、なんやそれ?」
目を細めて語ると、錬次は驚いて口をだらしなく開ける。知らなくて良いんだよ、俺達の関係なんざ
『…仕方ないんだ…それが、あの子の為なんだから…』
「んー…じゃあ、黙っとる条件に、質問に答えて貰ってええ?」
『答えられる範囲なら』
複雑な表情を浮かべながら、錬次は再び口を開く。質問の内容は大体検討はつく、恐らく…
「アンタと雛村壮一郎の関係はどんなんや?」
『んな大層なもんじゃない』
やはりな、関係を問いただしてくると思ったよ。お前が考えている様な関係じゃねぇよ…そうだな…
『…あの人は、私を変えてくれた人さ』
「…ふぅん…そか…」
俺の答えを聞いた錬次は、複雑そうに笑む。コイツ以外と目敏い、俺の僅かな表情の変化に気付いてやがる
『やんちゃも程々にしろ?お前ら義兄達に挟まれてる、ウチの弟の身にもなれ。鳴海はアンタの事も心配してんだからな?』
そう言って俺は踵を返す、だがそれも数歩歩いた所で止まる
「ちょお待ち、最後に。あんさんの名前、まだ聞いてへんわ」
『…藤島、燐だ』
不敵に笑み、俺は錬次の前から姿を消した
「ったく、ナルミのヤツ…しかし…あの眼(め)…ヒソンにどっか似とったな…」
その後、錬次がそう呟いていたのを
俺は知らない
11.12.14.