―…真実は一つではない
祖父の口癖だった言葉だ
今回の一件、腑に落ちない。雛村壮一郎と言う人物を良く知っているが為に、今回の件の歪みが見える
雛村壮一郎は【何か】を隠している
だが何を?探偵嬢から聞いた情報…ヒソンと言う韓国の女性と、後藤田組長、そして流れた巨額の金
後藤田組か…源なら分かるかも知れないな。携帯を取り出し、アドレス帳を漁る
『…あー…源?久々』
【お嬢?ご無沙汰しております、本日はどうなさったのですか?】
『…調べて貰いたい事があるんだ…五年前の後藤田組長の足取りを追ってくれ。金の流れもだ』
【…後藤田、ですか?】
『ああ…雛村壮一郎が絡んでいる。そして今それに関わる事で、厄介な事になっているんだ』
【…壮坊がですか?承知しました】
『……済まんな』
正直、気が進まん
けれどこの【歪み】で起きている事を、このままにしてはいけない。真実の裏にある、更なる真実。これを彼は隠している
『……源か』
【お待たせしました、お嬢。調べがつきました】
『相変わらず仕事が早いね、報告を頼む』
源は祖父の元右腕的存在で、俺のかつての教育係だ。そして彼の最も得意とするのは、探偵嬢にも負けじ劣らずの情報網を駆使した、情報操作と収集
【五年前に新大久保のキャバクラが平坂組に襲撃されています。店のバックには後藤田組が】
『…キャバクラ?』
【それから金の流れですが…後藤田は個人口座から毎月、生活費と思われる振り込みがありました。恐らく愛人への振り込みではないかと…】
『…振り込み、愛人…』
【それと、とある時期に巨額の出資がありました。その半分は新宿区の外科医、もう半分は足立区の不動産屋に振り込まれています。その不動産…どうやら壮坊の知り合いのようです】
『……なんだと?』
キャバクラ、愛人、外科医、不動産…そしてヒソンと言う女性。パズルのピースが揃っても、どうしても揃わない。おかしい、筋が通らない
【お嬢、それとですね…】
『まだあるのか?』
【ええ…実は……………】
『……何だと?』
そう言う事か、漸くピースが当てはまった。ったく…一人で抱え込むにも限度があるだろう
『ありがと、源。この事は内密に頼む』
【承知しとります、ご無理をなさらないように】
『ああ、分かった』
携帯を閉じ、ポケットにねじ込む。全く阿呆過ぎるわ…
『…んー…会ってみるか』
愚弟と盃を交わした、もう一人の義兄…平坂錬次に
11.12.06.