No.08

―…真実は一つではない


祖父の口癖だった言葉だ

今回の一件、腑に落ちない。雛村壮一郎と言う人物を良く知っているが為に、今回の件の歪みが見える



雛村壮一郎は【何か】を隠している



だが何を?探偵嬢から聞いた情報…ヒソンと言う韓国の女性と、後藤田組長、そして流れた巨額の金

後藤田組か…源なら分かるかも知れないな。携帯を取り出し、アドレス帳を漁る



『…あー…源?久々』

【お嬢?ご無沙汰しております、本日はどうなさったのですか?】

『…調べて貰いたい事があるんだ…五年前の後藤田組長の足取りを追ってくれ。金の流れもだ』

【…後藤田、ですか?】

『ああ…雛村壮一郎が絡んでいる。そして今それに関わる事で、厄介な事になっているんだ』

【…壮坊がですか?承知しました】

『……済まんな』



正直、気が進まん
けれどこの【歪み】で起きている事を、このままにしてはいけない。真実の裏にある、更なる真実。これを彼は隠している



『……源か』

【お待たせしました、お嬢。調べがつきました】

『相変わらず仕事が早いね、報告を頼む』



源は祖父の元右腕的存在で、俺のかつての教育係だ。そして彼の最も得意とするのは、探偵嬢にも負けじ劣らずの情報網を駆使した、情報操作と収集



【五年前に新大久保のキャバクラが平坂組に襲撃されています。店のバックには後藤田組が】

『…キャバクラ?』

【それから金の流れですが…後藤田は個人口座から毎月、生活費と思われる振り込みがありました。恐らく愛人への振り込みではないかと…】

『…振り込み、愛人…』

【それと、とある時期に巨額の出資がありました。その半分は新宿区の外科医、もう半分は足立区の不動産屋に振り込まれています。その不動産…どうやら壮坊の知り合いのようです】

『……なんだと?』



キャバクラ、愛人、外科医、不動産…そしてヒソンと言う女性。パズルのピースが揃っても、どうしても揃わない。おかしい、筋が通らない



【お嬢、それとですね…】

『まだあるのか?』

【ええ…実は……………】

『……何だと?』



そう言う事か、漸くピースが当てはまった。ったく…一人で抱え込むにも限度があるだろう



『ありがと、源。この事は内密に頼む』

【承知しとります、ご無理をなさらないように】

『ああ、分かった』



携帯を閉じ、ポケットにねじ込む。全く阿呆過ぎるわ…



『…んー…会ってみるか』



愚弟と盃を交わした、もう一人の義兄…平坂錬次に


11.12.06.




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