03
王宮務めの俺は普段、無口無表情で通っている。ソチラの方が色々と都合が良いからだ
己を偽り、仮面を被る
俺にとっては動作もない事で得意分野だ。現に国王を始めとした皆が、俺の素を知らない
……約、一部を除いて
「また寝不足っスか」
『どーして分かるかな?』
その一人、マスルール様
彼は俺の"仮面を被った"違和感に、匂いで気付いたそうだ…恐るべし野性児
現在は良き理解者でもあり、呑み仲間でもあり、悪友である
「ん。なんとなく」
『何となくかよ』
年齢が近いせいか、彼とは砕けた口調で話す。これはマスルール本人たっての希望で、堅苦しいのが苦手な俺は助かったが
「アスラ、よく無理するし」
『悪かったな、オイ』
「……状況は?」
マスルールは"本当の俺"を受け入れてくれた。まさか本当に信じてくれるとは思わなかったが、彼のお陰で"仕事"がスムーズに行っている
『西地区と東地区は終了した。北地区もそろそろ終わるが、南地区が手間取ってる』
シンドリアを区域毎に分け、奴等の"侵攻"を防ぐ"防壁"を作る作業を進めていた
が…その過程が厄介この上ない
「南地区は果実菜園が固まる地域だからな、仕方ない」
『あぁ。だから一番最初に着工したんだがな…まぁ何とかするさ』
これさえ終われば、連日続く徹夜から解放される。流石に王宮務めと"本職"を平行して、この作業を進めるとなると、どうしても時間が足りないので徹夜になるのだ
「…………ハァ」
『何だ、その意味深なため息は?』
「"また"倒れかけるぞ?いくら俺でも庇いきれない」
『う…』
彼が口にしたのは、ここ数日の徹夜と、過密過ぎる仕事量で俺が倒れかけたという痛い話である
あの時は人気のない所という点と、咄嗟にマスルールが庇ってくれた点で難を逃れた
「無理はしないでくれ」
俺はマスルールの懇願に弱い
恐らく今の彼が、"義弟達"を彷彿とさせるからだと思う
まぁ身体的年齢は近いが、精神年齢は遥かに年上だから仕方ない
『分かった、善処する』
そう言うと安心したのか、マスルールは薄く笑む
夕日の様な、紅の鬣を持つ獣は今日も穏やかな風を纏う
そんな心地良い関係に、根も葉もない噂が流れるのは…そう掛からなかった
(マスルール!あの噂は本当か!?)
(……噂?)
(知らないのか?お前が文官見習いの女の子とデキてるって、王宮じゃ専らの噂だぞ?)
(…………は?)
(多分知らないヤツの方がいねぇんじゃねぇか。で、どうなの?)
(そんな関係じゃないっス…まだ)
3夜 嘘か真か